雨を閉じこめる

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CHAPTER 23 / 24

第二十三章 白い画面

木曜、三輪さんへ電話する前に沙帆から返事が来た。
 金曜の夜は三十分しか作れないという。私は預かったCDと、数字に印をつけた紙を出した。
 全編を返したCDは家で聴く物と別に残す。カセットは三輪さんの家にある。もう一度確かめて電話した。
 土曜の午後に伺う約束になった。できなければ午前に連絡する。

 大学から、自分のした作業を書くよう頼まれていた。
 航の案を開くと、先生の意向を受け、とある。一行消すと、次に先生の了承の下で、と続く。
 全部を選びかけ、閉じた。
 新しい画面を開く。何を残せるか考える前に、自分が落とした行を上へ書いた。

 図書館の空いた机へ沙帆が来た。
 私は大学へ出す文を読んでいた。彼女はヘッドホンを出す。
「言い訳っぽくない? これ」
「まだ。聴いてるから」
 片方だけ外して答え、また戻す。私は自分の文へ目を下ろした。
 意味が変わるとは考えていなかった、と書いていた。残した一行なら読めると思った。消した行と、つけた字幕を二つ並べた。
 久住くんは少し遅れて来た。ノートを開き、アルバイトのシフトを沙帆へ訊いた。
「金曜、代われます。面談、午後なんですよね」
「まだ時刻、返事待ち。でも頼みたい」
「じゃ、先に店長へ言ってきます」
 立ちかけたところへ律が来た。鞄から写真袋を出す。
「灯、ご飯、行く?」
「ここ、終わったら」
「何時」
 私は時刻を見た。まだ最後の行を書いていない。
「あと二十分」
「じゃ、私、写真、見てる」
 向かいへ座る。あの土曜にも何時、と訊いた。
 西崎さんの研究を、大学へ提出する紙へ入れるか迷っていた。見本の音を使ったと私が思っていたが、彼の二年分の聞き取りは別にあった。私が読まなかったものを、なかったと書けない。
 そこで手が止まる。
 律は写真を袋へ戻す。私の文は読んでいなかった。画面を少し彼女の方へ向けた。
「これ、読んでほしい」
 律が顔を上げた。
「いま?」
「あとででも」
 彼女はうなずいた。
「私のは、まだ見せない。覚えてない所、灯に見せると、何かちゃんとなりそうで」
「うん」
 私は最後に自分の名を書いた。沙帆は耳の片方を外し、今日、自分の三分を聴いてほしいと言う。
 久住くんが電話を終えて戻る。もう店長には頼んだと言った。
「まだ面談、決まってないけど」
「空いたら戻せるので。先の方が頼めます」
 沙帆は携帯を見た。私たちの二十分とは違う予定が、そこにはある。

 沙帆の電話が鳴った。
 画面を見て、今出る、と立つ。廊下で耳へ当て、窓の方を向いていた。
 戻ると座る前に劇場、と言った。

「会いに来てくださいって。一度」
「決まった?」
「まだ。会うだけ。でも、会ってくれる」

 鞄を引き寄せる。

「何着ていこう」
「白いの、貸そうか」

 律が自分の袖を見た。
 下へ着る物も借りることになり、合わなかったらごめんと沙帆が言う。律の肩へ手を置いて、離す。

「そんな違わないか」
「今、何、測った?」
「だいたい」

 律が笑い、私も笑った。
 久住くんが灯さんも行くかと訊いた。沙帆が私だけ、と先に答える。

「今度、音、聴かせて」

 私は言った。
「新しいのもある」
「じゃ、新しいの」

 沙帆は頷いた。律が帰りのご飯は、と訊いた。
 安い所、今月もう、と沙帆が言う。私も久住くんも同じだった。
 律が挙げた二つの店から、知らない方へ行きたいと私が答えた。
 久住くんはノートを鞄へしまう。店長へ送った予定が、携帯の画面にまだ開いていた。

 翌晩、沙帆の部屋でCDを作った。
 借りた白い服は鞄へ畳んであった。律は自分の写真を見直したいと、来なかった。
 数字の紙を開き、車の区間を聴いた。
 三輪さんが道を尋ねる前の、車だけの所を短くする。帰ってきた、という声を残し、雨はそのまま。
 切ってつなぐと、行った先が急に近くなった。

「あ、止まる所、なくなった」

 沙帆が戻す。
 車が止まり、誰かが息をつき、三輪さんが声をかけた。そこからにすると少し長くなった。
 私は数字の横へ新しい印をつけた。

「三輪さんにも、ここ、もう一度聴いてもらう」
「土曜に間に合う?」
「作れる所まで持っていく。それで駄目なら、また」

 元の全編とは別の名で書き出す。初めとつないだ所、最後を確かめ、家で聴く分、とケースへ入れる。
 沙帆が時刻を見た。

「三分、聴いて。今度の方」

 私は椅子へ座り直す。仕事の音が閉じられた。
 雨が流れた。部屋で録った小さい音も奥に混じる。途中で彼女が画面を見たが、私は終わる所まで聴いた。
 顔を向けられる前に、もう一回、と言った。

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目次

雨を閉じこめる

  1. 01返却済み
  2. 02片方ずつ
  3. 03百円玉
  4. 04おかわり
  5. 05雨の間
  6. 06声の置き場所
  7. 07返す人
  8. 08帰らない夜
  9. 09名前を書くところ
  10. 10六時まで
  11. 11先に行って
  12. 12持ってくる方
  13. 13戻った部屋
  14. 14抜粋
  15. 15渡した写真
  16. 16誰と食べた
  17. 17家で聴く
  18. 18煮える間
  19. 19まだいる
  20. 20もう一杯
  21. 21行かない返事
  22. 22持って帰る
  23. 23白い画面読書中
  24. 24雨漏り

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