雨を閉じこめる

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CHAPTER 20 / 24

第二十章 もう一杯

律は店の前にいた。
 緑ではなく、白い短い袖だった。二人で入り、熱い紅茶と冷たい方を頼む。

「私、そっちがよかったかも」

 グラスが来ると、律が言った。

「まだ飲んでないじゃん」
「灯が持ってる方、よく見える」

 私はカップを彼女の方へ寄せた。律は取らず、鞄から携帯を出した。

「消さなかったんだよね。あの時、消してって言われたのに」

 画面に航がいた。袋を持ったまま、少し横へ顔を向けていた。

「顔、ちゃんと見せてくれないから。殴られた方、まだ赤くて。母さんにでも見せてって。勝手に撮って」

 航の空いた手がこちらへ上がっていた。
 私は画面を持たせてもらった。

「家族へ、送った?」
「やめた。澪さんには見せたけど。これ、残していいと思う?」

 その手の向こうに、まだ赤い頬があった。

「私に送ってくれた方も、ある」
「うん。あっちからも、消せって言われたら、どうしようって思った。今は、言われないんだけど」

 私は画面を律へ返した。

「消してって、私、言わない」
「そうだね。灯は言わないね」

 彼女は画面を伏せた。私は寄せたカップを自分の方へ戻した。

「ゲームの方、机に置いてる」
「端、切らないでよ。灯がいないと、あの時じゃなくなるから」
「肩だけだって」
「そこにいたじゃん」

 律はグラスを持った。氷が動いた。

 グラスの氷の真ん中に隙間ができた。
 律が残った紅茶を飲み、私のカップを見る。

「冷めた?」
「飲める」

 ひと口飲んだ。

「先生のこと、航じゃないって思ってる?」
「声の方は、去年の」
「知ってる。だから、よかったみたいに言わないで」

 私はそんなふうに言ったつもりはなかった。

「木曜、何度も音、聴いてって。私にも。先生がああ言ってるからって」

 律はストローを抜いた。

「一緒に聴けば、一緒に覚えると思ったのかな。私のこと好きだった所も、それ?」

 先に帰って、と彼女が言った所を思い出す。

「楽しかったんでしょ」

 口にしたら、律が顔を上げた。

「灯も、楽しかったでしょう」
「うん」
「私、灯が航と笑ってると嫌だったよ」

 私はカップを戻した。

「律が航さんと話してる時、私も」

 彼女は頷いた。それで済ませるのが嫌だった。

「私がそこへ行くの、二人に悪いかなって」
「悪くないよ」
「今なら、そう言えるじゃん」

 律がストローを紙へ戻す。

「私、今だけいい人になってると思われるのも嫌なんだけど」

 私も、そう思ってほしくて言ったわけではない。
 返事を探していると、律が先に飲物を持った。空だった。
 二人で見た。もう一杯頼む、と律が言った。私はメニューを取り、甘い方へ変えた。

 それぞれの分を払って外へ出た。
 駅へ行く道で写真の話をした。

「何撮ればいいか、今、分かんない」

 律が携帯の裏を見た。
 信号の向こうで人が大きな袋を抱えていた。袋の角が前にいる子の髪へ当たる。

「邪魔だね」

 青に変わると、その子が袋を押し、持つ人が振り返った。律は、よかった、と歩き出す。
 私は同じ道を渡った。

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目次

雨を閉じこめる

  1. 01返却済み
  2. 02片方ずつ
  3. 03百円玉
  4. 04おかわり
  5. 05雨の間
  6. 06声の置き場所
  7. 07返す人
  8. 08帰らない夜
  9. 09名前を書くところ
  10. 10六時まで
  11. 11先に行って
  12. 12持ってくる方
  13. 13戻った部屋
  14. 14抜粋
  15. 15渡した写真
  16. 16誰と食べた
  17. 17家で聴く
  18. 18煮える間
  19. 19まだいる
  20. 20もう一杯読書中
  21. 21行かない返事
  22. 22持って帰る
  23. 23白い画面
  24. 24雨漏り

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