律は店の前にいた。
緑ではなく、白い短い袖だった。二人で入り、熱い紅茶と冷たい方を頼む。
「私、そっちがよかったかも」
グラスが来ると、律が言った。
「まだ飲んでないじゃん」
「灯が持ってる方、よく見える」
私はカップを彼女の方へ寄せた。律は取らず、鞄から携帯を出した。
「消さなかったんだよね。あの時、消してって言われたのに」
画面に航がいた。袋を持ったまま、少し横へ顔を向けていた。
「顔、ちゃんと見せてくれないから。殴られた方、まだ赤くて。母さんにでも見せてって。勝手に撮って」
航の空いた手がこちらへ上がっていた。
私は画面を持たせてもらった。
「家族へ、送った?」
「やめた。澪さんには見せたけど。これ、残していいと思う?」
その手の向こうに、まだ赤い頬があった。
「私に送ってくれた方も、ある」
「うん。あっちからも、消せって言われたら、どうしようって思った。今は、言われないんだけど」
私は画面を律へ返した。
「消してって、私、言わない」
「そうだね。灯は言わないね」
彼女は画面を伏せた。私は寄せたカップを自分の方へ戻した。
「ゲームの方、机に置いてる」
「端、切らないでよ。灯がいないと、あの時じゃなくなるから」
「肩だけだって」
「そこにいたじゃん」
律はグラスを持った。氷が動いた。
グラスの氷の真ん中に隙間ができた。
律が残った紅茶を飲み、私のカップを見る。
「冷めた?」
「飲める」
ひと口飲んだ。
「先生のこと、航じゃないって思ってる?」
「声の方は、去年の」
「知ってる。だから、よかったみたいに言わないで」
私はそんなふうに言ったつもりはなかった。
「木曜、何度も音、聴いてって。私にも。先生がああ言ってるからって」
律はストローを抜いた。
「一緒に聴けば、一緒に覚えると思ったのかな。私のこと好きだった所も、それ?」
先に帰って、と彼女が言った所を思い出す。
「楽しかったんでしょ」
口にしたら、律が顔を上げた。
「灯も、楽しかったでしょう」
「うん」
「私、灯が航と笑ってると嫌だったよ」
私はカップを戻した。
「律が航さんと話してる時、私も」
彼女は頷いた。それで済ませるのが嫌だった。
「私がそこへ行くの、二人に悪いかなって」
「悪くないよ」
「今なら、そう言えるじゃん」
律がストローを紙へ戻す。
「私、今だけいい人になってると思われるのも嫌なんだけど」
私も、そう思ってほしくて言ったわけではない。
返事を探していると、律が先に飲物を持った。空だった。
二人で見た。もう一杯頼む、と律が言った。私はメニューを取り、甘い方へ変えた。
それぞれの分を払って外へ出た。
駅へ行く道で写真の話をした。
「何撮ればいいか、今、分かんない」
律が携帯の裏を見た。
信号の向こうで人が大きな袋を抱えていた。袋の角が前にいる子の髪へ当たる。
「邪魔だね」
青に変わると、その子が袋を押し、持つ人が振り返った。律は、よかった、と歩き出す。
私は同じ道を渡った。