山を下りるにはまだ早い

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CHAPTER 19 / 21

第十九章 後ろの席

五月、裁判所の前で三人が会った。
 僕の証人としての出廷は前の週に済んでいた。宏和は同じ日、亮はその前だった。今日は三人で後ろへ座った。
「今日、最後までいられる?」
 僕が訊くと、亮は五時から店だと答えた。
「俺は実習へ戻る」
 宏和は箱を持っていなかった。
「入口、まだ逆?」
「逆。友達に見せたら、広い方が入口だと思ったって。俺、逆にしたつもりなのに。階段が邪魔になってる」
「元に戻す?」
「いや。階段の方を動かす」
 亮は、模型の人、俺よりいい家住んでるよな、と言った。宏和は家じゃねえよ、と返した。

 拓海は前にいた。包帯はなかった。水原さんと福地さんもこちらを向かなかった。
 医師が病院の記録と解剖の所見を説明した。五時に笑ったこと、その後に声が出たことも質問に入った。首の痕だけから、いつの圧迫がどれほどを生じさせたか、一回ずつに分けられるわけではないという。
 僕は自分に答えてくれた声を覚えていた。その時、首の中がどうなっていたかは見ていなかった。

「倒れた後も、手を離さなかったのですね」
「はい」
 拓海は答えた。床へ置いたファイルを開いたのは、自分の二行と名前があったからだと話した。
「呼びませんでした。電話も取って、持って出ました」
 福地さんへ、首へ使ったと話した。ただ、緩めてから引き直したことも、倒れてからなお続けたことも話さなかったと答えた。
 僕が見た所を訊かれるわけではなかった。拓海が答え終わるまで、聞いた。

 水原さんには、いったん帯を下げてから引き直した理由が訊かれた。
「取材を終えたくて。返事をしてからって、私が言いました」
「首から放すよう言われていたのですね」
「はい。私が引きました」
 福地さんは、女将を呼ぶと庄司さんが言った後にも引いたことを問われた。
「私から説明すると。帳場へも、俺が掛けました」
 電話機を戻す依頼で、救急ではなかったと確かめられた。弟と弁当を食べるつもりだった話を始めると、その日の行為についての問いへ戻された。
「先生が女将へ言うと言ったので。私が先に説明すると」
 拓海は二人が答える間も、こちらを向かなかった。

 記録は、亮が胸を押し、水原さんが切れた掌へ布を当てる所まで続いた。亮は僕の肘へ軽く触れた。
「俺、あれ、あんな長く押してたんだ」
 声は小さかった。僕は頷いた。

 休廷で出ると、窓の前に庄司さんの娘だという女性がいた。職員と明日の予定を話し、仕事の方にも連絡すると言った。
 僕の紙の裏に、十人、四十五、と書いてあった。今なら数字だけではなく、庄司さんが笑った時のことを話せた。女性は携帯で明日の時刻を言い直していた。
 声を掛けず、紙を鞄へ戻した。

 その日の審理が終わり、駅へ向かう途中で、判決の日は亮が授業だと分かった。午前中に作った物を先生へ見せ、直してから提出するという。宏和もその日提出だった。
「俺、先に出してから来る。予約した」
「じゃ、二人か。結果、送る」
 僕が言うと、亮は頼む、と答えた。
「夜、飯は?」
「行ける。店も休みにした。今日の分は働く」
 亮は改札へ行き、宏和は実習室へ戻った。僕は来月の大会の問題集を鞄から出した。電車で三問解いた。拓海がはいと答えた声が、問題を読み終えるたびに戻った。

 判決の日、千佳さんから、帰りに駅で紙を渡してよいかと連絡があった。
 宏和は待ち合わせへ遅れて来た。
「提出、間に合った?」
「出した。けど、まだ直す」
「もう出したんだろ」
「返してもらう。入口、あのままにしない」
 話し足りない顔のまま、後ろの席へ座った。
 三人へ有罪と告げられた。刑は同じではなかった。病院の記録、三人の供述、録画の前後がここまでに確かめられていた。首からいったん外れた後の声だけで、先の行為を死亡から切り離す判断ではなかった。救助へ戻ったことと、傷へ布を当てたことにも触れられた。
 拓海は前に残った。

 外で亮へ結果を送った。宏和が横から読んだ。
「俺、これ、そのまま残しとく」
「うん」
「夜、何時?」
「七時にしたい」
 僕は亮の返事を待った。授業の後は帰って寝る、七時なら行ける、と来た。
 宏和は図書館へ寄ると言った。展示室の写真がある本を借りる。裁判所の近くで別れて、僕は千佳さんの待つ駅へ行った。

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目次

山を下りるにはまだ早い

  1. 01四人部屋
  2. 02並ぶ前
  3. 03二つの一階
  4. 04待っている答え
  5. 05先に買う
  6. 06湯の手前
  7. 07玄関
  8. 08雨の二人
  9. 09骨
  10. 10返すもの
  11. 11まだ話している
  12. 12紙の向こう
  13. 13返してもらうもの
  14. 14隣へ座る
  15. 15下へ行く
  16. 16残した車
  17. 17九時の番号
  18. 18送られてきた紙
  19. 19後ろの席読書中
  20. 20おかわり
  21. 21終章 四人分

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