五月、裁判所の前で三人が会った。
僕の証人としての出廷は前の週に済んでいた。宏和は同じ日、亮はその前だった。今日は三人で後ろへ座った。
「今日、最後までいられる?」
僕が訊くと、亮は五時から店だと答えた。
「俺は実習へ戻る」
宏和は箱を持っていなかった。
「入口、まだ逆?」
「逆。友達に見せたら、広い方が入口だと思ったって。俺、逆にしたつもりなのに。階段が邪魔になってる」
「元に戻す?」
「いや。階段の方を動かす」
亮は、模型の人、俺よりいい家住んでるよな、と言った。宏和は家じゃねえよ、と返した。
拓海は前にいた。包帯はなかった。水原さんと福地さんもこちらを向かなかった。
医師が病院の記録と解剖の所見を説明した。五時に笑ったこと、その後に声が出たことも質問に入った。首の痕だけから、いつの圧迫がどれほどを生じさせたか、一回ずつに分けられるわけではないという。
僕は自分に答えてくれた声を覚えていた。その時、首の中がどうなっていたかは見ていなかった。
「倒れた後も、手を離さなかったのですね」
「はい」
拓海は答えた。床へ置いたファイルを開いたのは、自分の二行と名前があったからだと話した。
「呼びませんでした。電話も取って、持って出ました」
福地さんへ、首へ使ったと話した。ただ、緩めてから引き直したことも、倒れてからなお続けたことも話さなかったと答えた。
僕が見た所を訊かれるわけではなかった。拓海が答え終わるまで、聞いた。
水原さんには、いったん帯を下げてから引き直した理由が訊かれた。
「取材を終えたくて。返事をしてからって、私が言いました」
「首から放すよう言われていたのですね」
「はい。私が引きました」
福地さんは、女将を呼ぶと庄司さんが言った後にも引いたことを問われた。
「私から説明すると。帳場へも、俺が掛けました」
電話機を戻す依頼で、救急ではなかったと確かめられた。弟と弁当を食べるつもりだった話を始めると、その日の行為についての問いへ戻された。
「先生が女将へ言うと言ったので。私が先に説明すると」
拓海は二人が答える間も、こちらを向かなかった。
記録は、亮が胸を押し、水原さんが切れた掌へ布を当てる所まで続いた。亮は僕の肘へ軽く触れた。
「俺、あれ、あんな長く押してたんだ」
声は小さかった。僕は頷いた。
休廷で出ると、窓の前に庄司さんの娘だという女性がいた。職員と明日の予定を話し、仕事の方にも連絡すると言った。
僕の紙の裏に、十人、四十五、と書いてあった。今なら数字だけではなく、庄司さんが笑った時のことを話せた。女性は携帯で明日の時刻を言い直していた。
声を掛けず、紙を鞄へ戻した。
その日の審理が終わり、駅へ向かう途中で、判決の日は亮が授業だと分かった。午前中に作った物を先生へ見せ、直してから提出するという。宏和もその日提出だった。
「俺、先に出してから来る。予約した」
「じゃ、二人か。結果、送る」
僕が言うと、亮は頼む、と答えた。
「夜、飯は?」
「行ける。店も休みにした。今日の分は働く」
亮は改札へ行き、宏和は実習室へ戻った。僕は来月の大会の問題集を鞄から出した。電車で三問解いた。拓海がはいと答えた声が、問題を読み終えるたびに戻った。
判決の日、千佳さんから、帰りに駅で紙を渡してよいかと連絡があった。
宏和は待ち合わせへ遅れて来た。
「提出、間に合った?」
「出した。けど、まだ直す」
「もう出したんだろ」
「返してもらう。入口、あのままにしない」
話し足りない顔のまま、後ろの席へ座った。
三人へ有罪と告げられた。刑は同じではなかった。病院の記録、三人の供述、録画の前後がここまでに確かめられていた。首からいったん外れた後の声だけで、先の行為を死亡から切り離す判断ではなかった。救助へ戻ったことと、傷へ布を当てたことにも触れられた。
拓海は前に残った。
外で亮へ結果を送った。宏和が横から読んだ。
「俺、これ、そのまま残しとく」
「うん」
「夜、何時?」
「七時にしたい」
僕は亮の返事を待った。授業の後は帰って寝る、七時なら行ける、と来た。
宏和は図書館へ寄ると言った。展示室の写真がある本を借りる。裁判所の近くで別れて、僕は千佳さんの待つ駅へ行った。