十日ほどして、三人の逮捕が報道された。拓海の名前と職業が並んでいた。名刺と同じ字だった。
食堂の出口で亮に会った。
「食った?」
「食った。腕、どう」
「病院、行った。使ったんだって。痛い間は休めってさ」
「バイトも?」
「皿、まとめて持てないから。今、レジ」
彼はメニューを見て、今日はもう魚がない、と言った。
「唐揚げはあった」
「店でも揚げてんだよな。俺、まだ横で見てるだけだけど」
「やらせてもらえないの」
「頼んだ。腕、戻ってから」
亮が列へ入ったので、僕は出た。自分の汁が冷めていたことを、外へ出てから思い出した。
その晩、課題の友人から電話が来た。
「大学の新聞の人が、旅行のこと聞けるかって。俺、四人の写真持ってるって、言っちゃった。出す前に、訊いてくれって言ったけど」
「もう渡した?」
「まだ。お前から来たやつだから」
「これが出るの。名前の横に?」
「出していいなら。別に、記事になるかもまだだけど」
「いや、出さないで」
「分かった。お前の話だけなら聞ける?」
写真を開いた。拓海は笑っていた。僕の口も開いていた。
「今は無理」
「じゃあ、そう言っとく。俺も何て言えばいいか」
「訊いてくれて、ありがとう」
「うん。勝手に出すのは、まずいと思ったから」
宏和へ、写真を記事へ出してよいか訊かれて断った、と送った。すぐ電話が来た。
「誰が持ってるって」
土曜に課題の友人へ送ったと話した。
「俺、あの写真、お前らに送ったんだよ」
「分かってる。俺が送った」
「大学のやつにも?」
「課題の話してて。そのあと、景色も送れって」
返事がなかった。
「楽しかったのは、本当だったから」
「それ、何。今、俺に言うこと?」
「いや」
「楽しかったよ。俺も。あいつが来られる日、待ってたんだから。でも、名前出た横に俺らの顔まで並べられてさ。俺が撮った写真、そこへ出すためじゃねえよ」
「だから断った」
「うん。そこは読んだ」
「送ったの、駄目だったか」
「今、そういう返事するの無理。俺も知らない所へ、自分の顔、出てくと思って」
「まだ出てない」
「分かってる」
声が大きくなった。僕は、分かってないように訊いた、と言った。
「授業、行く。あとで写真、残ってるやつ見せて。大きいの。お前が送った方」
亮へも連絡した。出さなくていい、と返ってきて、その下に、俺のは消してない、とあった。
机の横に大会の参加票があった。僕の名前だけが大きく印刷されていた。
翌週、水原さんから封書が来た。訂正の原稿と、自分がしたことを書いた紙があった。一枚目を先に読んで頂けましたか、と追伸にあった。拓海へ原稿を届けてほしいとも。
編集部で訂正するので水原芙美の名は付けられないという。六月に写真を選んだ人へ連絡を控えるよう言われたが、その人からどうなったかと尋ねられている、と書いていた。
両方読んだ。どちらも彼女の字だった。
警察へ持っていく日に、宏和から模型の材料を受け取ってほしいと頼まれた。実習室に届く。本人は同じ時間、警察で車に乗っていた時のことを話す。
「俺、その後、実習室、使う。途中で受け取って」
「何時までいる?」
「六時。でもお前は置いて帰っていいよ」
「練習してていい? クイズの」
「俺に出すんじゃなければ」
「一人でやる方」
「じゃ、いて」
白い箱に宏和の名前があった。受取の紙に僕の名前を書き、作業台へ運んだ。透明な板が入っていた。
宏和が戻るまでに二十問解いた。十八問正しかったので、間違えた二問を別の紙へ書いた。
「何、その板」
「屋根。外せるようにする」
宏和は模型の一部を持ってきた。階段が二つあった。
「ここ、つながるの?」
「まだ。入口、逆にしてみたい。先生にこっちの方が早いって言われたけど、全部短くすりゃいいってもんでもないだろ」
「何の建物?」
「展示室。俺、入ってすぐ全部見えるのが嫌なんだよ」
入口の小さい壁を外し、別の所へ立てた。僕は問題へ戻った。紙の端に、握手、と書いてあった。十人なら四十五回。その下へ、庄司さんが言った九十を、また書いてしまった。
「課題、出した?」
宏和が訊いた。
「まだ。今日中か」
「うん。俺もあとで」
同じ授業の紙を一枚渡された。大学へ戻る時刻まで、僕はここにいた。
警察では封書を見てもらい、確認が済むまでそのまま持っていることになった。五時二分の送信記録を出し、その前に庄司さんが立って封筒を受け取り、机へ戻ったことを話した。
「笑ってました。俺が、孫が正しく答えた後で笑えるといいって言ったら」
香坂さんが書いた。僕は、袖の釦が外れていたことも話した。
家で水原さんへ返信を書いた。両方読みました。拓海に届けることは引き受けられません。その後が続かなかった。
翌朝、同じ紙を封筒に入れた。宏和へは旅行の写真を二枚とも送った。受取の写真とは別の文に付けた。
大会の日、名札を胸へ下げた。予選の後半で二問続けて押せた。一問は答えが違い、もう一問は言い切る前に時間になった。
最後の問題で手を伸ばした時、隣の人のランプが先についた。その人が正解すると、決勝へ残る三人の名前が呼ばれた。僕の名前はなかった。
駅へ向かいながら、宏和と亮へ負けたと送った。
〈賞品、何〉
〈見てない〉
〈残って見ろよ〉
亮から来た。僕は歩き続けた。
〈俺は次、勝つから〉
送った後で、まだ一問、答えが出そうになった。