山を下りるにはまだ早い

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CHAPTER 18 / 21

第十八章 送られてきた紙

十日ほどして、三人の逮捕が報道された。拓海の名前と職業が並んでいた。名刺と同じ字だった。
 食堂の出口で亮に会った。
「食った?」
「食った。腕、どう」
「病院、行った。使ったんだって。痛い間は休めってさ」
「バイトも?」
「皿、まとめて持てないから。今、レジ」
 彼はメニューを見て、今日はもう魚がない、と言った。
「唐揚げはあった」
「店でも揚げてんだよな。俺、まだ横で見てるだけだけど」
「やらせてもらえないの」
「頼んだ。腕、戻ってから」
 亮が列へ入ったので、僕は出た。自分の汁が冷めていたことを、外へ出てから思い出した。

 その晩、課題の友人から電話が来た。
「大学の新聞の人が、旅行のこと聞けるかって。俺、四人の写真持ってるって、言っちゃった。出す前に、訊いてくれって言ったけど」
「もう渡した?」
「まだ。お前から来たやつだから」
「これが出るの。名前の横に?」
「出していいなら。別に、記事になるかもまだだけど」
「いや、出さないで」
「分かった。お前の話だけなら聞ける?」
 写真を開いた。拓海は笑っていた。僕の口も開いていた。
「今は無理」
「じゃあ、そう言っとく。俺も何て言えばいいか」
「訊いてくれて、ありがとう」
「うん。勝手に出すのは、まずいと思ったから」

 宏和へ、写真を記事へ出してよいか訊かれて断った、と送った。すぐ電話が来た。
「誰が持ってるって」
 土曜に課題の友人へ送ったと話した。
「俺、あの写真、お前らに送ったんだよ」
「分かってる。俺が送った」
「大学のやつにも?」
「課題の話してて。そのあと、景色も送れって」
 返事がなかった。
「楽しかったのは、本当だったから」
「それ、何。今、俺に言うこと?」
「いや」
「楽しかったよ。俺も。あいつが来られる日、待ってたんだから。でも、名前出た横に俺らの顔まで並べられてさ。俺が撮った写真、そこへ出すためじゃねえよ」
「だから断った」
「うん。そこは読んだ」
「送ったの、駄目だったか」
「今、そういう返事するの無理。俺も知らない所へ、自分の顔、出てくと思って」
「まだ出てない」
「分かってる」
 声が大きくなった。僕は、分かってないように訊いた、と言った。
「授業、行く。あとで写真、残ってるやつ見せて。大きいの。お前が送った方」
 亮へも連絡した。出さなくていい、と返ってきて、その下に、俺のは消してない、とあった。
 机の横に大会の参加票があった。僕の名前だけが大きく印刷されていた。

 翌週、水原さんから封書が来た。訂正の原稿と、自分がしたことを書いた紙があった。一枚目を先に読んで頂けましたか、と追伸にあった。拓海へ原稿を届けてほしいとも。
 編集部で訂正するので水原芙美の名は付けられないという。六月に写真を選んだ人へ連絡を控えるよう言われたが、その人からどうなったかと尋ねられている、と書いていた。
 両方読んだ。どちらも彼女の字だった。

 警察へ持っていく日に、宏和から模型の材料を受け取ってほしいと頼まれた。実習室に届く。本人は同じ時間、警察で車に乗っていた時のことを話す。
「俺、その後、実習室、使う。途中で受け取って」
「何時までいる?」
「六時。でもお前は置いて帰っていいよ」
「練習してていい? クイズの」
「俺に出すんじゃなければ」
「一人でやる方」
「じゃ、いて」

 白い箱に宏和の名前があった。受取の紙に僕の名前を書き、作業台へ運んだ。透明な板が入っていた。
 宏和が戻るまでに二十問解いた。十八問正しかったので、間違えた二問を別の紙へ書いた。
「何、その板」
「屋根。外せるようにする」
 宏和は模型の一部を持ってきた。階段が二つあった。
「ここ、つながるの?」
「まだ。入口、逆にしてみたい。先生にこっちの方が早いって言われたけど、全部短くすりゃいいってもんでもないだろ」
「何の建物?」
「展示室。俺、入ってすぐ全部見えるのが嫌なんだよ」
 入口の小さい壁を外し、別の所へ立てた。僕は問題へ戻った。紙の端に、握手、と書いてあった。十人なら四十五回。その下へ、庄司さんが言った九十を、また書いてしまった。
「課題、出した?」
 宏和が訊いた。
「まだ。今日中か」
「うん。俺もあとで」
 同じ授業の紙を一枚渡された。大学へ戻る時刻まで、僕はここにいた。

 警察では封書を見てもらい、確認が済むまでそのまま持っていることになった。五時二分の送信記録を出し、その前に庄司さんが立って封筒を受け取り、机へ戻ったことを話した。
「笑ってました。俺が、孫が正しく答えた後で笑えるといいって言ったら」
 香坂さんが書いた。僕は、袖の釦が外れていたことも話した。

 家で水原さんへ返信を書いた。両方読みました。拓海に届けることは引き受けられません。その後が続かなかった。
 翌朝、同じ紙を封筒に入れた。宏和へは旅行の写真を二枚とも送った。受取の写真とは別の文に付けた。

 大会の日、名札を胸へ下げた。予選の後半で二問続けて押せた。一問は答えが違い、もう一問は言い切る前に時間になった。
 最後の問題で手を伸ばした時、隣の人のランプが先についた。その人が正解すると、決勝へ残る三人の名前が呼ばれた。僕の名前はなかった。
 駅へ向かいながら、宏和と亮へ負けたと送った。
〈賞品、何〉
〈見てない〉
〈残って見ろよ〉
 亮から来た。僕は歩き続けた。
〈俺は次、勝つから〉
 送った後で、まだ一問、答えが出そうになった。

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目次

山を下りるにはまだ早い

  1. 01四人部屋
  2. 02並ぶ前
  3. 03二つの一階
  4. 04待っている答え
  5. 05先に買う
  6. 06湯の手前
  7. 07玄関
  8. 08雨の二人
  9. 09骨
  10. 10返すもの
  11. 11まだ話している
  12. 12紙の向こう
  13. 13返してもらうもの
  14. 14隣へ座る
  15. 15下へ行く
  16. 16残した車
  17. 17九時の番号
  18. 18送られてきた紙読書中
  19. 19後ろの席
  20. 20おかわり
  21. 21終章 四人分

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