山を下りるにはまだ早い

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CHAPTER 14 / 21

第十四章 隣へ座る

宏和が荷物からパンを出した。途中の店で買ったまま、袋が潰れていた。

「食べる?」

 亮は首を振った。僕は半分、と言った。宏和は割ろうとして、クリームが指についた。皿がなくて、袋の上へ置いた。
 亮は窓へ行った。障子を開け、すぐ閉じた。外は暗かった。

「俺、会いたい」

 僕は口にあったパンを飲み込んだ。

「拓海に?」
「うん。来いって、言ってほしくないけど」

 宏和は指を拭いた。

「訊く。会えるか」

 彼は座卓の白い電話を取り、帳場へ掛けた。鷲尾さんをお願いできますか、と、自分で訊いた。
 亮は僕らの座卓の端へ戻った。パンは取らなかった。

 小部屋へ行くと、拓海は立ちかけた。

「座ってて」

 亮が言った。拓海は座り直した。
 僕は戸の近くへ残った。鷲尾さんが椅子を一脚寄せてくれた。亮は向かいに座らず、拓海から一つ分離れた隣へ座った。

「俺さ、今日は、湯、二回入ったんだよ」

 拓海は亮を見た。

「祐助に聞いた。待ってたって」
「祐助から、待ってって聞いた。そのとき、もう二回目だった。お前、何か、忘れ物取りに行ったんだと思って」

 亮は拓海の足元を見た。二人とも宿のスリッパだった。

「俺、あの人の胸、押した。顔、ほとんど見てない。手を置く場所ばっかり、見てた」

 拓海は、俺、と言いかけた。

「いま、先に、聞いて」

 亮が言った。

「お前が電話持って下りる前、床へ倒してたんだって。俺、そのとき、二回目へ入ってた」

 拓海は頷いた。

「そこまで、聞いた」
「だから、何も知らない俺へ、待っててって、言ったのが」

 亮は椅子を引いた。立たなかった。

「俺、今日、来るの、楽しかったんだよ。お前、行けるって言ったから。誰も減らさないで、四人で」

 拓海は両手を膝へ置いた。

「ごめん」

 亮は顔を向けなかった。

「いま、その返事を、俺がするの、嫌だ」

 拓海は黙った。
 鷲尾さんが時刻を見た。亮は椅子を戻し、立った。拓海も立ちかけたが、亮は足を止めなかった。

「亮」

 拓海が呼んだ。

「俺、仕事と母に、自分で電話する」

 亮は戸まで来てから、振り向いた。

「俺に、許可もらわなくていい」

 拓海は何か言いかけた。亮は部屋を出た。
 廊下で宏和が待っていた。パンの袋を持っていた。亮へ出すと、彼は一つ取った。

「飲み物、上にある」

 宏和が言った。亮は頷き、階段を上がった。僕はその後を行った。

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目次

山を下りるにはまだ早い

  1. 01四人部屋
  2. 02並ぶ前
  3. 03二つの一階
  4. 04待っている答え
  5. 05先に買う
  6. 06湯の手前
  7. 07玄関
  8. 08雨の二人
  9. 09骨
  10. 10返すもの
  11. 11まだ話している
  12. 12紙の向こう
  13. 13返してもらうもの
  14. 14隣へ座る読書中
  15. 15下へ行く
  16. 16残した車
  17. 17九時の番号
  18. 18送られてきた紙
  19. 19後ろの席
  20. 20おかわり
  21. 21終章 四人分

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