会場の机は一つ減った。
小鈴が前へ客席を寄せ、あとから自分が座る椅子を忘れたと騒いだ。僕が予備を出すと、それ、後ろのお客の、と返された。
凪は会場へ来なかった。ルカも名古屋の下見でいなかった。都は、台の最初の組立は別の人になった、と言った。
「もう、こっちの家賃も自分で払う。納品、二つ減るんだよね。車ある人だけ、探してる」
「僕の会社へ、見積り出そうか」
「出して。運ぶ日、まだ変わるかもしれないけど」
都は携帯をしまった。ルカと何を決めたかは、僕へ全部話さなかった。
都は鞄を椅子の下へ置いた。型紙はもう入っていなかった。小さい缶を出し、蓋を開けた。包まれた飴が、何粒か残っていた。
「持ってって」と言われ、僕は一つ取った。彼女は自分の分も取り、蓋を閉めた。
サエさんが来た。ソファのカバーはまだ縫い終わっていない。金の布は、派手すぎるから、内側へ入れるという。
「見えなくなるね」
「座ったら、少し出る。あんた、外から見るだけだから」
彼女は僕の飴へ手を出し、一つもらうと都へ言った。
サエさんが持主、小鈴が冷蔵庫を読む。僕は、物を取りに来た客が一回帰り、忘れ物で戻る所へ出る。凪の続きではなく、小鈴が三分の中へ直した紙だった。
サエさんは紙を持って歩いていた。僕が役を確認しようとすると、いま字、探してる、と指を上げた。眼鏡を掛けると、主人の最初の行が見つかった。僕は自分の一枚目を出した。
源さんの写しは、今日は使わない。小鈴が直した原稿には、僕の客が二回戻る方と、一回で帰る方があった。戻る方を客席が選んだ時には、サエさんへ合図してと言われた。持主が扉を閉める所で、サエさんは机を持たないと決めた。紙を持つ方の手が空かないためだった。
小鈴は三分と言っていたけれど、僕が二回戻れば、何分になるかはまだわからなかった。
会場の人が、そろそろ、と扉を開けた。
小鈴が先に出て、客席へ、一度帰った客を戻していいか訊いた。
後ろの人が、戻らなかったら何するの、と訊き返した。
「客が戻らなかったら、持主と冷蔵庫で片づけます。私、そっちはまだ知らないところもあるので」
サエさんが紙を持ち上げた。片づける方の一枚が見えた。
「じゃ、戻して。あとで片づける方も聞きたい」
「今日は一つ。次、また来て」
小鈴が返すと、別の人が、それ商売だ、と笑った。僕は二回目の頁へ指を入れ、抜いた。一回目からだった。
サエさんが紙を揃え、僕を見る。僕は紙を高く上げすぎていた。
「そこ、顔、見えない」と言われ、少し下げた。
客席に、源さんの姪がいた。空けておいた席ではない。最後にもう一人、友達を連れて来ると連絡があり、小鈴が椅子を足した。
僕の最初の台詞は短かった。急いで一度に言い終え、小鈴がこちらを見るまで、紙の字が目へ入らなくなった。
サエさんが扉の話をした。小鈴が帰りかけ、途中で僕を向いた。僕は紙をめくった。
二回目に来る客の最初を、見つけられなかった。
サエさんが咳をした。台詞の咳なのか、待ってくれたのか、僕にはわからなかった。小鈴が僕の名前ではなく、客の用事を聞いた。
客席の一人が少し笑った。僕は鞄へ手を出しかけた。今日は持っていない。紙の方へ戻すと、小鈴はまだ、何を取りに来たのか待っていた。
僕は顔を上げた。
「忘れた方を、訊きに来ました」
サエさんが、私も忘れた、と返した。客席が笑った。小鈴は二人を見て、扉をもう少し開けた。