箱の外で待ち合わせ

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CHAPTER 05 / 19

第五章 下ろした分

六時二十分、小鈴は三束の札を確かめた。凪が二つ、彼女が一つ。僕は裏口へ運び、車へ載せた。
「借りるの、九時まで。昨日八時って見たけど」
 小鈴は借用の紙を鞄へ戻した。凪は、箱も今なら、と長箱へ向いた。
「二階、仕事が終わるまで使ってる。あとで鍵もらう」
「箱、今積めますよ」
「入れないよ。その時間、まだ人が使うから」
 凪は車の戸を閉め、劇場へ戻った。源さんが凪の紙を見ていた。小鈴へ渡す三分の二枚、その後ろに凪の一枚があった。
「これ、冷蔵庫、もうないのか」
「捨てた後から。俺が戻って来て、源さんが持主で迎える方です」
 源さんは扉を開ける行へ爪を当てた。閉める所へ、手を外す、と書いた。
「小鈴、捨てた後も読むか」
「私の、捨てる所まで。後ろはまだもらってない」
「二人で出すって返したんです。先に俺が書いて、見せてから」
 小鈴は凪を見た。凪の指が原稿の端を丸めた。
「返したの?」
「九時までに、出来る方を」
 彼女は前の二枚を取った。源さんが押さえていたので、引かなかった。
「それ、もう一組ある? 今日読むの、こっち」
 凪は鞄から写しを出し、小鈴へ渡した。源さんは後ろの一枚を広げた。
「前の客、まだ帰ってねえのに二回目を言うんだな」
「いま読んでもらえば直せます。もう一回、録ってから」
 源さんは帰る客の最初を凪へ向けた。
「俺、誰へ開けるんだ」
 凪が紙を持った。
「冷蔵庫、まだ」
 源さんの顔が上がった。凪は続きを見直し、紙を半枚戻した。
「紙、見せてみろ」
 源さんが手を出した。小鈴は時計を見た。
「本、持った? 私、一束しか運ばないよ」
 凪は原稿を台へ置き、携帯を近づけた。
「写真、送っときます。読むの、箱下ろしてから」
 源さんは端を持っていた。僕が丸まった所へ指を置く。凪は白い所まで入れて撮った。
「後ろも、今夜持って来いよ」
 源さんが言った。凪は頷き、写した紙をそのまま残した。畳んだナイフが上にあった。
「箱、下ろしたら電話」と小鈴が言った。
「月のあとじゃねえのか」
「明日は読む方。今夜は箱と、凪の紙の話」
 小鈴の携帯が鳴った。車の戸を持ち、部屋の人の話を聞いた。
「はい。九時半には、箱だけ置いて。明日の十一時から使います」
 凪が時計を見た。
「俺、先に椅子並べたいんです」
「鍵の人が来てから。私、午前は司会だから、歩、先に来られる?」
「月の人、十一時半に劇場」
「その前。部屋だけ見てくれれば」
 僕は本の荷札を渡した。凪が、本を返す所も先、と助手席へ置いた。
 源さんは車へ手を上げた。凪が座り、鞄を膝へ載せた。

 うどんをよそったあと、都は源さんの薄茶色の上着を膝へ載せた。右の背の縫い目がまたほどけていた。
「戻すだけなら千円。次、引っ張ったら千五百」
「千円で頼んだ」
 都は裏地へ指を入れた。ルカは食べ終わり、彼女の隣へ座り直した。
「名古屋、部屋もある。こっちの家賃は払うから」
「何か月?」
「三か月。長くなったら、その時また」
「三か月?」
 都が上着の上へ針を寝かせた。
「来月の納品どうするの。あんた、車出すって言ったよね」
「最初のは行ける。週末なら帰れる」
「三つあるんだよ。最初の一つだけじゃなくて」
 僕は鍋を火から下ろした。ルカは箸を揃え、食べ終えたことをもう一度見せるように椀へ渡した。
「日を教えて。今決めれば」
「何を決めるの。仕事、受けてきたんでしょう」
「受けた。受けるだろ。次があるか分かんないんだから」
「行くなって言ってないよ」
「じゃあ」
「今日聞いて、今日分かったって言わなきゃ駄目なの?」
 都が裁縫箱を閉じると、上着が膝から落ちた。二人で拾い、どちらも袖を離さなかった。
「離して」
 ルカが手を引いた。
「家賃のことも。払えばいいって話じゃ」
「払わなくていいの?」
「要るよ!」
 都が上着を握った。源さんが、縫ったばっかりだぞ、と言った。彼女は手を緩めた。
 僕は鍋の底の一本を取った。都の椀へ入れるか、自分で食べるか決められなかった。
「これ持っといて」
 都が小さい缶をルカへ渡した。
「飴。膝から落ちる」
 彼はポケットへ入れた。
「道具、先に積む。帰ってから話そう」
「棚は積まないで。まだここで仕事する」
「分かった」
「材料も」
「分かったって」
 彼は白い工具袋を右から左へ持ち替えた。源さんが手首を見た。
「工藤に別の奴を頼むか。台、重いぞ」
「ひねっただけです。名古屋には言わないで」
「台を落とされちゃ困る」
「落とさないです」
「組む方は、手が治ってからでいい。俺の台の足、先に貸せば、出来てる方を使える」
「それ、源さんが組んだ方ですよね」
「客はどっちが組んだか、知らねえよ」
「都は見る」とルカが言った。
 都は針へ糸を通そうとしていた。名前を呼ばれ、まだ払う方、と上着を示した。
 源さんは椀を置いた。返事を待たず、都へ上着が済んだかと訊いた。
 ルカは少し待ち、工具袋を持って外へ出た。

 七時十分、畑野さんが灰色の服で戻った。源さんに夜の受付の紙を出し、次に台を売る控えを出した。
 源さんは先の紙だけ返した。
「水曜、昼は寝ろ。こっちに来るなよ」
「台を運ぶ方も、別の人に」
「それは先に決まってんだろ」
 都は見積りと、渡した服の控えを持ってきた。畑野さんが台の売却の控えへ重ね、源さんへ渡そうとした。
「こっちは私の。まだ払ってもらってないよ」
 都は自分の二枚を抜いた。
「ここから引けば、源さんに返すのは残りでしょう。都の分も、先に払ったって」
「受け取ってない。払ったって書くなら、今日払って」
 畑野さんは財布を出しかけ、紙へ戻った。源さんは台の控えだけを取った。
「俺へ返す話に、人の仕事を足すな」
 畑野さんは、先にこっちを、と都を事務所へ呼んだ。都は二枚を別の封筒へ入れた。
 僕は流しで椀を洗った。都が袖の札の封筒を頼んだので取りに行き、源さんへ渡した。
「捨てるなよ。サエに見せる」
 源さんは机へ置いた。都が返した上着の裏地が引っ掛かっていたので、僕は襟だけを持ち、彼が両腕を通すのを待った。
 右の背へ入れた糸は二本、玉を結んだ端が短く並んでいた。都が余った方を切った。源さんは上着を脱がず、肩を上げて待った。
「右、引っ張るなよ。また取れる」
「着るの手伝っただけで千五百ですか」
「それは俺に訊くな」
 都が笑いかけ、畑野さんの呼ぶ声へ向いた。

 ルカが戻り、源さんと台を動かした。僕は反対へ膝を入れた。台が上がると、ルカの左の指が白くなった。
「下ろせ」
 源さんが言った。下の角材が転がり、ルカが足を引いた。源さんは台の端の携帯を横へ向けた。
「工藤。右、二段目から」
 引出しを少し出して止め、前の所で持ち直した。長い柄の工具を抜き、ルカの一本へ並べる。自分の方へ紙を巻いて名を書いた。
「こっちは貸す。名古屋でまた足りなくなるだろ」
「ありがとうございます」
 ルカが二本を袋へ入れた。携帯へ工藤の名を出し、閉じた。
「明日の台は替わってもらいます。名古屋の組立は行く」
「工藤へ言え。人数、俺は知らねえよ」
「源さんから言うと、全部休むってことになるから」
 名古屋から電話が来た。ルカは大丈夫、最初の週から、と答える。都の服を向こうへ着せる台を自分で組むという。都はまだ注文ではないと言っていた。ルカが、試着の分から、と言い足した。
 源さんの携帯の点はついていた。僕が見ると、源さんは引出しへ戻り、抜いた方をもう一度入れた。
 電話を切ったルカが源さんを見た。
「今の、向こうへ言わないでください」
 源さんは片手を引出しへ置いた。
「ここ、映ってねえか」
 僕が携帯を持ち直すと、角が入った。源さんは続きを出した。
 ルカが、九時に車でつなぐ、と画面の返事を読んだ。工藤と工具を出し、名古屋の人が入ってから図を見る。最初の組立の人へ渡すので、初めから残すという。
「今日、顔出すんですか」と僕は訊いた。
「仕事だから。工具も。右の方は、見せない」
「映像なら手も入るだろ」
「どっちで持つかまで、今決めてほしくないです」
 ルカは自分へカメラを向け、右手首を下へ置いた。源さんは四区画からねじ袋を出し、一本ずつ数えた。
「これ、工藤へ。袋ごと」
 ルカは工具とは別に持った。源さんは空洞の箱の毛布へ、長さを揃えた二本の縄を載せた。
「これ、先に取れよ。開ける方、下だ」
 側板を指したので、僕は結び目の短い端を引いた。締まった。
「船、沈むぞ」
 輪の方を引くと解けた。源さんは紙の端へナイフを置き、毛布を一枚僕へ渡した。
「本、なくなると軽いですね」
「そっち先に返せって言っただろ」
 僕は籠へ押し込んだ。畑野さんと都の車は角を曲がっていた。
 作業室へ戻ると、ルカが源さんへ携帯を貸してと頼んでいた。
「自分ので掛けろ」
「俺のだと出ないかもしれない。明日の台は替わってもらう、名古屋は外さないでって」
「台は下ろしただろ」
「下ろせって言われたからです」
 源さんが携帯を向けた。画面の中にも空いた引出しがあった。僕が赤い四角を指すと、源さんはそこを押した。点が消えた。
「右二段目でいいか。名」
「いま出した所?」
「工藤、そこから出すから」
 源さんは名前を入れた。昼の本の話の画面は出さなかった。ルカが袋を持ち、僕が戸を開けた。
 彼が車から戻るのを待って、源さんから借りる毛布の数を月の人へ送った。二枚になったと答えた。八時九分だった。
「割るなよ、明日」
「ほかにも運ぶんで、どれですか」
「月だよ」
 ルカが笑った。左の指に、工具袋の赤い印が移っていた。
 籠へ押した毛布の白い糸が源さんの背へ残っていた。彼が払おうとして届かないので、僕が取った。二本の糸玉へ絡みかけていた。切った先は短く、そこをつまむとまた都へ返すことになる。玉の間は、都が縫った細い線で閉じていた。毛布の方だけを引いた。
「割る前に、俺の服、ほどくなよ」
「まだ月、来てないです」
 僕は自転車へ乗った。角を曲がると、源さんの声は聞こえなくなった。
 家では卵焼きが残っていた。明日の分か聞くと、あんたの分、と母が答えた。朝より固くなっていた。

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目次

箱の外で待ち合わせ

  1. 01運んだ箱
  2. 02三分の役
  3. 03窓の裏
  4. 04帰ってから
  5. 05下ろした分読書中
  6. 06受取人の署名
  7. 07靴の袋
  8. 08焦げた角
  9. 09聞いていた人
  10. 10店の前
  11. 11持ったまま
  12. 12二つの水
  13. 13切る方
  14. 14見られる客
  15. 15聞こえる方
  16. 16土曜の九時
  17. 17返す紙
  18. 18台を下ろす
  19. 19終章 二回目

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