箱の外で待ち合わせ

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CHAPTER 14 / 19

第十四章 見られる客

借りた部屋の机は三つ、壁へ寄せた。

 小鈴が受付へ払いに行く間に、凪は原稿を出した。前半の三分と、自分が続けて出すはずだった後半を離して置いた。

「俺、客の方、一回やりたいんです。今書いてる方も、ここから戻すんで」
「今日、凪は持主だよ」と僕は言った。
「そこはやる。でも俺の最初も、歩さんなら」

 小鈴が戻った。受付から借りた布を机へ置き、主人の紙を凪へ渡した。後半は今日は通さないと言った。

「私が冷蔵庫、凪が持主。歩は、一回帰った客が、忘れ物で戻ったところだけ。何か言ったら、そこから返して」
「何でも?」
「家じゃなくて冷蔵庫に戻って来たんだから、入る物で」

 戻る客の行には、返事を待つ、とだけあった。次の行を先に探していた僕は、そこへ指を置いた。

 凪が受付から二人、連れて来た。次の会場が空くまで待っている人たちだった。

「三分だけです。聞いてもらって、あと、出来た方だけ撮りたいんで」
「聞いてもらう三分なら」と小鈴が言った。「撮る方は、いま返事してない」

 二人が前へ座った。僕は鞄を入口へ置こうとして、やめた。片方の人が、何を忘れるんだろう、と小さい声で言った。

 持ったまま入った。

「忘れ物です」

 一度に言った。凪が顔を上げ、小鈴が何を忘れました、と訊いた。僕は鞄を開けた。仕事の手袋と伝票しかなかった。

 何も出さずに閉めると、客席の一人が笑った。

 今度はゆっくり、留め金を掛けた。

「忘れた物も、忘れました」

 凪が机の前へ出た。僕の鞄を覗き、何も出さずに戻った。

「じゃ、私も。何を返すか、忘れました」

 小鈴が笑った。客席へ向け、二人とも忘れたので今日は何も減りません、と言った。凪は先に続きを言い、僕が返すまで紙へ戻らなかった。

 速くなった分を最初から言い直さなくても、二人は笑った。

 三分のあと、受付の人は次の部屋へ戻った。小鈴が客の用事の欄へ、忘れた物、と書き足した。

「今の、撮ってた?」と僕は訊いた。
「撮ってないです。言われたから」

 凪は伏せてあった携帯を取った。

「もう一回。主人、いまの方、残したい」
「先に最後まで」と小鈴が言った。「歩が戻る所、今度は私が読んでみる。冷蔵庫の紙、歩、持って」

 彼女が入口へ下がった。凪は主人の最初を言った。小鈴が用事を言わずに立つと、彼も紙をめくった。空欄だった。
 凪は前の行へ戻り、膝の上で紙を僕へ向けた。

「忘れたって言って」
「次の客、同じ忘れ物にする?」

 凪は僕を見た。

「さっきの人、もう一回呼べます?」
「別の部屋、始まった」と小鈴が言った。

 僕は冷蔵庫の紙を机へ置き、鞄を持ったまま客席へ座った。小鈴がその紙を取った。

「ここで見てる」

 凪が顔を上げた。僕へ最初を言うと、今度は小鈴へ、どの棚、と返した。僕はさっきの人より大きく頷いた。

 凪がもう一度、僕を見る。

 凪は僕が頷くのを見てから、次の行へ行った。

 僕は鞄を膝で開き、携帯を探すふりをした。画面は見なかった。

 凪の声が止まった。

「歩さん、今、聞いてました?」

 僕は顔を上げた。

「うん」

 小鈴が僕の椅子の前へ来た。僕が鞄を閉じかけると、持ち手を押さえた。
「そこに次の客、入ってる? そんなこと、書いてない」
 凪は僕へ近づかなかった。
「歩さん、何を見てたんですか」
「聞かなくなったら、続くか」
 小鈴が手を放した。
「どうして」
 僕は鞄を膝へ置いた。留め金はまだ掛けていなかった。
「土曜も、こんなふうに源さんが見てたのか、知りたかった」
 凪が自分の紙を取った。
「待ってたって、言いましたよ」
「そのあと、帰ったって言ったから。客を録り始めた時にはって。今日、こっちをやったら」
「三分をやるって来たんだよ」と小鈴が言った。
 机の紙には、さっき僕が言った忘れ物がある。小鈴はそこを消さず、紙を取った。
「後ろを読まないって、受付にも言った。私、そう返事したから」
「土曜にどこで止まったか、聞きたかった。言わないで来た」
 凪は携帯を鞄へ入れた。
「歩さんに見ててって、俺、昨日」
「うん」
「さっき、もう一回出来ると思ったんです。あの人たちが見てた方」
 僕は立った。
「ごめん。客、ちゃんとやる。もう一回」
「いまはやらない」
 小鈴は僕の紙も取った。最初の行にあった指の跡が、端へ残っていた。

 凪は主人の椅子を壁へ寄せた。僕が端へ手を出しかけると、凪は持ち上げて壁へ置いた。僕は手を下ろした。
 小鈴は受付へ布を返した。幅を確かめるため借りて来たが、広げないままだった。
 僕は客の所へ立った。
 凪は顔を上げなかった。次を待つ人も、笑う人もいない。
 小鈴が戻り、今週の客は別の人へ聞くと言った。紙は僕へ返さなかった。

 小宮さんへ、客の後ろをここで確かめようとした、本人から帰った所は聞けなかった、と送った。背の布を見た時と、朝、箱を開けた所を続けて見たいとも送った。
「もう署、行きます」
 凪が鞄を閉じた。僕も行くと答えた。
 小鈴が受付へ支払いの控えを返している間に、僕は自分の分を置いた。
「あとで割るって言ったでしょう」
 返された金をしまった。凪は先に階段へ出た。

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目次

箱の外で待ち合わせ

  1. 01運んだ箱
  2. 02三分の役
  3. 03窓の裏
  4. 04帰ってから
  5. 05下ろした分
  6. 06受取人の署名
  7. 07靴の袋
  8. 08焦げた角
  9. 09聞いていた人
  10. 10店の前
  11. 11持ったまま
  12. 12二つの水
  13. 13切る方
  14. 14見られる客読書中
  15. 15聞こえる方
  16. 16土曜の九時
  17. 17返す紙
  18. 18台を下ろす
  19. 19終章 二回目

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