箱の外で待ち合わせ

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CHAPTER 16 / 19

第十六章 土曜の九時

僕と小鈴が外へ出たあとも、凪は話した。
 その夜のことを、僕は後から聞いた。袖を引いたこと、源さんが救急へ掛けろと言ったこと。掛けた記録はなく、源さんの携帯は箱の底へあった。
 凪が述べた夜を、残った声、服、箱の状態と合わせて聞いた。源さんの動きや、明日なら録れると思ったという所は、録画を止めたあとの凪の話だった。

 九時四分の電話が終わると、源は携帯を机へ置いた。凪は低い棚の録画を止めた。持主の声は二回、そこに残っていた。
「俺、先に客をやります。ここから」
 源は椅子へ座り、紙を膝へ伏せた。
「来いよ」
 凪が客の場所へ立つ。源が扉を開ける手を上げた。
「冷蔵庫、まだ」
 声が切れた。凪は次の行を探した。源の手が紙の向こうにあった。
「待ってるよ」
 凪は一枚戻し、息を吸った。源も手を少し下げて戻した。もう一度最初を言おうとすると、さっき言った行が目に入らなかった。
「そこ。客は、まだ戸の外だ」
 源が膝の紙へ指を置いた。凪の行だった。
 凪は紙を見た。源の指があるところから言えば、つながる。それでも声を出す前に棚へ戻った。
「先に、二度目の方からにしてください」
 自分の携帯で声を出した。源が、凪の書いた最後をゆっくり読む。画の中では紙を見ていた。
 源は紙を机へ伏せ、立って椅子の座面を上げた。
「おまえの続きは、二回読んだろ」
「俺のは、今、録ってないんです」
「俺が座ってたのは、おまえが来るのを待ってたんだよ」
 凪は撮る方へ替えた。低い位置では、立った源の顔が入らない。本を二冊重ね、携帯を載せた。源はその前へ椅子を持って出た。
「それ、下ろして。一回だけ」
「片づける。歩く所、空けろ」
 凪が右袖を掴んだ。椅子から手を放してくれれば、座った方へ戻せる。源は椅子を床へ下ろし、袖を持つ指を外した。
「離せよ。袖、また取れる」
 凪の手が空いた。
「明日、おまえからやれ。俺が座る前に」
「小鈴さん来たら、三分からじゃないですか」
「その前に来い。月を出して、俺も行く」
 源は椅子を壁へ運んだ。
「俺の片づける方も、まだ紙がねえ。明日、小鈴に聞く」
 凪は再生を選んだ。源が座って次を待つところで止めた。その座る所だけもう一度録れば、二度目の最後へ自分の客を入れられる。画面を顔の方へ戻すと、椅子の座面がそれを隠した。
「背、向けないで」
 源の右肩へ手を置いた。身体を棚へ向けようとすると、源は手を払った。
「肩、放せ。もうやらねえって」
 椅子の脚が壁へ着いた。

 凪は棚へ戻らなかった。箱の天板から、折畳みナイフを左手で取った。刃を開いた。
「源さん、止まって」
 源は振り返り、ナイフを見た。
「それ、置け」
 凪は手を下げた。天板へ戻すには肘を少し伸ばせばよかった。柄を持ったまま、右手で椅子の座面を下ろした。
「今も、ここ、空いてます」
「ナイフ置くまでやらねえ」
 源は机に残った続きの紙を見た。
「明日はおまえから。月を出したら、俺、座って聞く」
 凪も紙を見た。二度目の最後へ、爪の跡があった。明日には録れると思ったという。左手は空かなかった。
 右手で紙の端を揃え、源へ向けた。源が取れば、読んだ顔をまた撮れる。
「ここ、まだ戻せます」
 源は紙を取らず、机の脇へ足を引いた。
「離れろ。人、呼ぶぞ」
 自分の携帯へ手を伸ばした。
 凪は紙を離し、右袖をもう一度掴んだ。
「もう引くな」
 源が袖を払った。右肩へ手を置き直すと、源は肩も引いた。その手の先に携帯があった。
 凪は右の後ろへ一歩寄り、左の肘を引いた。柄を握り直した。
 動く背へ刃を入れた。

 源が壁へ手を出した。椅子が傾き、凪は空いた右手でそれを掴んだ。刃を抜くと、源は箱の横へ膝をついた。
「電話。凪」
 椅子を壁へ戻した。ナイフを天板へ置き、棚から自分の携帯を取った。録画の一覧に、源の顔があった。二度目を開いて、最後を探した。
「救急、掛けろ」
 床から声がした。携帯の中では、源はまだ紙を読んでいた。
「待って」
 源が机の脚を持ち、自分の携帯へ手を伸ばす。凪が先に取った。
「それ、置け。そっちで掛けろ」
 凪は二つ持っていた。どちらからも呼出し音はしなかった。自分の方の声が終わると、もう一度、最後へ戻した。
 源の携帯は箱の上へ置いた。

 凪は自分の続きの紙を天板で裏返した。ナイフの刃を畳んで包み、源の原稿も、携帯の隣へ移した。
「ここ、入ってもらっていいですか」
 床へ訊いた。
 源は返さなかった。
 天板の毛布を取った。腕の下へ差し、肩を返そうとすると、上着が右から外れた。身体は持ち上がらなかった。
 毛布を広げ直し、肩と腰を別々に返して下へ通した。足を載せてから側板を倒す。低い斜めの面が出来た。箱の底までは、掌一枚ほどの高さだった。
 頭を窓側へ残し、そちらの毛布をまとめて引いた。肩が動く。足は板の端に残った。いったん放し、両足を板へ戻してから、頭の方へ回った。
 箱へ背を向け、少しずつ引いた。肩が底へ入ると、上着の背は毛布と一緒に側板へ折れ出た。
 着せ直さなかった。源の携帯と原稿を底へ置き、包んだナイフも入れた。
 側板を上げる。留め金が一つ掛からない。布を避けようとして下ろしたが、毛布を引けば源の肩まで動いた。
 一つだけ留め、底を通っていた縄を取った。源が解いた所で結び、もう一本も同じ所まで引いた。余った毛布を上へ掛けた。
 薄茶色の端は縄の下へ残った。

 棚の本を戻した。源が読んだ低い位置へ携帯を置き、二度目の最後を聞いた。客の場所は空いていた。
 鞄から写しを出した。椅子を机の前へ戻した。
 九時二十一分、録画を押した。閉じた箱と空いた椅子が画に入った。客の最初を言う。続けようとすると階段で音がした。
 ルカが入った。
「工藤さん、まだ源さんに掛けたいって」
「帰りました」
「映像、長くなって。右も見せろって言われたから、車の中で」
 ルカが携帯をしまった。凪は写しを椅子へ置いた。
「最初だけ、聞いてください。そこ、もう一回」
 ルカが座ると、凪は戻る客の最初へ戻った。棚の数字が進んでいた。
 一度目を言った。ルカが返事をしたので、同じ所からもう一度言った。二度目には、息を吸う場所が違った。
「紙、顔が隠れた」
 凪は少し下げ、最後まで言った。鍵の人に呼ばれても言い直さなかった。ルカを待たせ、九時半に鍵を返した。
 下へ出てから、二度目の源の最後をもう一度聞いた。そこは消さなかった。

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目次

箱の外で待ち合わせ

  1. 01運んだ箱
  2. 02三分の役
  3. 03窓の裏
  4. 04帰ってから
  5. 05下ろした分
  6. 06受取人の署名
  7. 07靴の袋
  8. 08焦げた角
  9. 09聞いていた人
  10. 10店の前
  11. 11持ったまま
  12. 12二つの水
  13. 13切る方
  14. 14見られる客
  15. 15聞こえる方
  16. 16土曜の九時読書中
  17. 17返す紙
  18. 18台を下ろす
  19. 19終章 二回目

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