箱の外で待ち合わせ

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CHAPTER 03 / 19

第三章 窓の裏

昼御飯は凪のおにぎりだった。
 鮭が一つ潰れていた。凪はそれを自分の前へ置き、多く買った一個を持ち上げた。
「食べる人」
 ルカが手を上げた。
「さっきも食べてた」と小鈴が言った。
「まだ昼、食べてない」
「あれは?」
「都に半分返した」
 都は携帯の文を送り、ルカの前のおにぎりを見た。
「返された半分、まだ袋にあるよ」
「じゃ、あとで」
 凪がおにぎりを渡した。都も包みを開け、携帯を紙の裏へ伏せた。

 食べ終わると、僕とルカは舞台の壁を畳んだ。青い板が三枚、蝶番でつながっている。真ん中には窓があった。
「右、持てる?」
 僕は下の枠へ両手を入れた。ルカは壁に身体を寄せ、右手首を曲げずに脚のねじを外した。
「代わる?」
「これだけ。もう回った」
 ねじが抜けた。僕が右の板を畳むと、裏の桟が引っ掛かり、ルカの袖へ角が来た。
「逆。いったん戻して」
 戻す間に左の板もずれた。凪が携帯を机へ置き、端を押さえた。
「三人いる壁だな」
「俺が左持つ。歩、右、戻せる?」
 ルカが凪の手の外を持った。僕は左を内へ畳み、右を外へ重ねた。さっきよりずっと薄くなった。
 窓は見えなくなった。向こうから顔を出す役だった僕が、ルカの方を向いていた。
「今、撮れた?」
「止めた。逆にした方だけ」
 凪が画面を見せた。開こうとしている僕の手に、板がまたついてきた。
 小鈴が身を寄せた。
「これ見て、明日、畳める?」
「俺が先に挟まる」
 凪は携帯を下げ、ルカの手へ画を合わせた。
「一回、開いて。左から、そこ、止めないで」
 僕らは戻した。今度は脚を抜くところから、畳み終えるまで撮れた。凪が再生すると、ルカが、ここは毛布を敷いてから、と床を指した。凪は映像へその文を付けた。
 窓の左下に三日月形の傷がある。先週、凪が椅子を当てた所だった。
「源さん、直さなかったんだ」
「貧乏な部屋だからって」
「俺のせいで部屋が貧乏になった」
「最初から」とルカが言った。
 畑野さんが裏口から見ていた。
「それ、ひばりへ入れる。大家さんが四時半に開けてくれるから」
 ルカは先方の床を出した。白と茶色の小さい四角、理容椅子を外した丸い跡。僕は桟へ段ボールを二重に当て、車へ壁を積んだ。脚二本は別に束ねた。
「立てるなら、こっちも」
 畑野さんが脚を取った。
「寝かせた方が場所、空きますよ」
「うん。でも日曜に使いたい。そこまで借りる」
「月を入れる方?」
「月は、向こうの人」
 彼は脚へロープを掛けた。
 都が紙を持って来た。
「出る前、三分あります?」
「資材屋も寄るから、帰ってからでいい? 五時半。六時には」
 都は携帯へ時間を入れ、紙を折り直した。車が出ると、舞台へ戻った。

 蓋を外し、灰色の上着を箱へ入れた。肩が区画から出た。
「これ、衣裳は入れづらいですよ」
「畳め」
 源さんが作業室から言った。都が上着を取って裏返した。僕の見ていた肩が下へ入った。
「捨てるの?」
 彼女は襟の札を出した。源さんが首を振った。
「俺のじゃない。畑野に訊け」
「ああ。これ、月曜に着る方」
 都は服を自分の机へ掛けた。舞台の札を袖の裏へ入れ、腕をひっくり返す。
「衣裳で面談へ?」
「向こうは知らないからって。少し短くする。返事もらってないから、まだ箱に入れないで」
 僕は蓋を閉めかけて手を止めた。
 都は左袖を携帯へ寄せた。三つ残る仕事を誰かへ頼むため、裏を見せて額を聞くという。畑野さんが帰ったら着てもらって、もう一度撮る。凪は袖を支え、布が戻るところも要るか訊いた。
「要る。どっちの袖か、分からなくなるから」
 彼は携帯を取った。都が、着てから、と袖を戻す。凪は机の前を空け、塗料の缶へ戻った。

 隣の箱も開け、蓋を二つ並べた。『旅箱』の中は四つに仕切られ、『食器』の方は空いている。僕は会社へ送る写真を撮った。源さんが缶をどけ、小鈴の持った蓋を裏返す。
「指、そこ。下へ入ってる」
 小鈴が持ち替えると、源さんは彼女の指が抜けるまで端を持った。二つの金具が合った。
「同じの四つ、工藤から来る。返事が来たらな」
「来月、台に要るんだよ」
 凪は、もう写真と違った、と言った。都は二枚撮り直し、連絡グループへ送った。僕は蓋の字と仕切りを一枚へ入れた。四区画の方が『食器』になった。
「明日のは食器って言えばいいか」
 僕が手掛けへ指を入れると、爪へ板の角が当たった。
「そっち、狭い」と凪が言った。
 隣の箱は掌が入った。僕は持ち上げかけて、止まった。
「あ、こっち、違う。持てる方、取っちゃった」
「俺、狭い方って送っとく」
 凪が携帯へ打った。源さんは仕切りを揺らした。板は両側の角材から動かなかった。
「皿、割れるから入れたんだ。持てないほどは出してねえよ」
 僕は指の場所をずらした。今度は持てた。

 凪が空洞の箱へ腰を下ろしかけ、源さんに立てと言われた。僕が蓋を戻すと、源さんは縁を押した。
「そこまでなら座れる。足は載せんな」
 凪が座った。中へ響いた。
「船の役、覚えてる?」と小鈴が訊いた。
「船は役じゃない」
「船長」
 凪は立って、足を乗せかけた。
「塗ったばっかりだぞ。横、開けろ。乗る方だ」
 僕は長い側の留め金を二つ外した。側板が床へ着き、箱の底へ低い斜めの面が出来た。凪はそこから入り、膝を伸ばした。
 会社の欄へ内側の数字を入れた。長さは二メートル近く、幅六十五、深さ五十五。靴の先にも余った。仕切った方には、この戸がなかった。
「今度これ、冷凍庫にしたい。源さん、入ってくれる?」
「俺を冷やすのか」
「出て来る台詞もあるよ」
「そっちを言えよ」
 凪は外へ出た。靴を板に引っ掛け、源さんへ足元を指される。留め金を掛けてから、客席の方を向いた。
「この先、何にもないぞ」
 小鈴が腹を抱えた。
「それ、あなたのじゃない。向こうの人」
「こっちでしたっけ」
「こっちはまだ見えてねえんだよ」と源さんが言った。
 凪は顔を反対へ向け、同じ台詞を小さく言った。僕はさっきよりも、前の芝居を思い出した。

 小鈴のチラシに、僕の名前があった。
「三人で読むの。物を取りに来る客、そこだけ」
「僕、出るって言ってない」
「短い所」
「短くても速くなる」
「じゃ、急いでる人」
「まだいないです」と凪が言った。
 小鈴は僕の名へ鉛筆を引いた。冷蔵庫を自分が読み、持主は凪が読んでいた三分。僕の客の用事は空いていた。
「聞きには来る?」
「行きたい」
「じゃ、そこにいて。人数減ったら割り直し」
 会場費を八人で割ると端数が出た。凪が五円多く出すと言い、小鈴はまだ全員来るか分からないと消した。
 源さんが三分の二枚を取った。
「俺がいない」
「来るんですか」
「読む方」
 小鈴は凪を見た。凪は持主の紙を源さんへ向け、裏の方から自分の白い紙を抜いた。
「じゃ、そこ、お願いします」
 源さんが僕の頭より上へ手を上げた。
「こいつの高さで待たせんなよ」
「身長の役じゃないです」
 青い壁を外した所に、椅子が二脚あった。僕が一つ寄せると、源さんは空いた幅へ出た。玄関で荷物を待つ二人がこちらを向いた。
「この先、何にもないぞ」
 源さんが、さっき窓だった所を見る。玄関の人も見る。奥は畳んだ板だった。
「じゃ、荷物どこへ置くの」
 僕が言うと、源さんは笑った。
「空いてる所へ置け。客の方、先にどけんなよ」
 二人も笑った。小鈴が紙を戻してもらおうとすると、源さんは胸へ寄せた。
「最初からやる。冷蔵庫、そっちに立て」
 小鈴が椅子の脇へ行った。源さんは持主の行を読み、途中で椅子から立った。
「戻る客、ここへ入って来る?」
「一回帰す所から、客席に訊くつもり」
「帰って来なかったら、俺、片づけるぞ」
「書く。その方も」
「そっち長くしてくれ。帰らない奴に俺のやること全部持たせるな」
 小鈴は欄外へ丸を付けた。凪が、声だけ録れば、と携帯を出した。
 源さんは紙を少し高くした。椅子の脚が箱へ当たったので、片足で寄せた。
「声、立たねえぞ」
 源さんは紙を凪へ渡した。凪は携帯へ置きかけ、自分の白い紙の上へ戻した。
「俺の続きも、あとで見てもらっていいですか」
「持って来い。俺の台詞、待てるか」
「練習してからです」
 源さんは、月を出したら明日一時に行く、と小鈴へ言った。
「箱は今夜。午前の司会があるから」
「今夜の司会、俺も手伝うんで、終わってから取りに来ます」と凪が言った。
 小鈴は箱へ紙を敷き、本を載せようとした。
「本は先に返せ。箱ごと階段へ上げんな」
 僕は三束へ分け、二冊ずらして紐の下へ指を入れた。小鈴の控えから三枚の札へ名を書き、挟む。凪が重い二束を持った。
「箱を運ぶ前に返すんだね」
「車を返す所も寄る。今夜しか借りてないから」
 小鈴が場所を携帯へ出した。凪は束を下ろし、その隣で道を見た。

 源さんが三束を撮った。携帯を台へ置き、工藤と呼ぶ。
「本は先に返す。ねじ袋は今夜、台は明日。箱を下ろしたら俺もそっちへ行く。先に紙、聞いてくれって言われてる」
 小鈴が原稿を上げた。
「そっちは私の会場。工藤さん、来ちゃうよ」
「来たら椅子を出せ」
「八人分しかない」
「じゃ、持って来させろ」
 凪が笑った。源さんは自分で止め、昼の分、と名を入れた。まだ送らず、画面を暗くした。
 畑野さんへ渡す台の寸法も測った。源さんが引出しを抜くと、長い柄が中へ当たった。抜いた所で止め、角度を変えて入れ直す。
「これも持ってくの?」と僕は訊いた。
「工藤のだ。今夜返す」
 源さんは引出しを閉めた。小鈴は会場の階段を見せ、凪が椅子を運ぶと言った。僕は片づけが何時に終わるかを訊いた。
 源さんの紙は凪の手に戻り、白い紙と別々に折られた。

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目次

箱の外で待ち合わせ

  1. 01運んだ箱
  2. 02三分の役
  3. 03窓の裏読書中
  4. 04帰ってから
  5. 05下ろした分
  6. 06受取人の署名
  7. 07靴の袋
  8. 08焦げた角
  9. 09聞いていた人
  10. 10店の前
  11. 11持ったまま
  12. 12二つの水
  13. 13切る方
  14. 14見られる客
  15. 15聞こえる方
  16. 16土曜の九時
  17. 17返す紙
  18. 18台を下ろす
  19. 19終章 二回目

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