箱の外で待ち合わせ

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CHAPTER 12 / 19

第十二章 二つの水

日曜の夜、凪が僕の水を飲んだ。

「それ、僕の」
「ごめんなさい。俺の、まだ向こうだ」

 喫茶店の人が二つ持って来たばかりだった。凪の方は、小鈴が電話に使う紙の下へあった。僕は自分のグラスを彼の前へ戻した。

 都の姉から、病院に着いたと連絡が来た。僕は源さんの姪へ会ったあと、またここへ戻っていた。凪も警察から戻った。土曜の映像を渡すのに時間が掛かったと言った。

 都の姉の携帯から、袖の映像をこちらへ送ってほしいと来ていた。都が横で頼んでいる、と続いていた。畑野さんから回収された携帯は、まだ返らない。凪は姉へ掛け、都に送る相手を確かめてから、土曜に撮った長い方を開いた。都が布を戻す前から、札を出し終える所まであった。

「これ、残ってたんだ」
「袖の名前つけたんで。向こうが額を出せるって来た方です」
「助かったって、都が」

 凪はまだ送らず、返事を待っていた。姉から宛先の確認が来ると、都に見せるよう文を添えて送った。姉から、受け取ったと返事が来た。

「次、また頼まれた?」
「写真、こっちは自分で見たいって。今日はこの分だけ」

 小鈴は明日の読み合わせに借りられる部屋を探していた。午前の司会を終えてから源さんを迎えるはずだった。その紙も、鞄にあった。

「明日、誰とやるの」と僕は訊いた。
「月曜の午後、取れる所へ行く。電話してくる」

 彼女が席を離れた。凪は黒い携帯を机へ置いた。

「俺の方、金曜の夜に見せるって返事してるんです。小鈴さんにも出てもらうって」
「本人に言った?」
「後ろは、まだ。先に俺が出来たら、言えると思って」

 彼は自分の文を開いた。九時までの返事へ、二人で出します、と送っていた。源さんへは九時三分に続きの紙を送った。

「源さん、読んだの?」
「二回。最後、俺が書いたのより遅くなって。そこは使いたいんです」
「九時三分に送ってから?」
「紙は先です。戻ってから渡して、そこで二回。送ったのは、そのあと」

 凪が文の前へ写真を出した。昼の原稿の端には僕の指があり、その下はまだ白かった。

「劇場で書き足した方を、会場へ持って戻ったんだね」
「五十三分に。源さん、その紙で読んだんです」

 小鈴の九時四分の電話より前に、二回読んでいた。届いた時刻が、読むのを始めた時刻ではなかった。

「源さんがいなかったって言ったのは、いつ?」

 凪は新しい後半へ指を戻した。

「ルカさんが来た時には。俺が帰った所、見たわけじゃなくて」

 朝は、五十三分に戻るといなかったと聞いた。僕は凪の指の下を見た。源さんの声を撮ったのは、この紙を渡したあとだった。

「その前に読んだ方と、ルカが来た方、続けて見たい」
「前後、警察には渡してます」

 凪は音を出さなかった。僕は小宮さんへ、新しい後半を紙で渡した時と、帰ったと答えた時を一緒に確かめたいと送った。誰を疑うかは書かなかった。

 店の人が皿を下げに来た。僕の焼き菓子は半分残っていた。持ち帰る袋を頼むと、凪が自分のパンも入れてよいか訊いた。

「別々?」
「はい。こっち、食べかけなんで」

 僕は袋を待つ間に、残りを食べてしまった。店の人が僕を見た。

「じゃ、袋、一枚」

 凪が笑った。僕も笑いかけ、顔を下げた。小鈴の水は机に残っていた。

 彼女から文が来た。月曜の二時半、月曜の四時、木曜の七時。さっき電話で空いていた部屋を、まだ押さえる前の候補だった。

「一番目、僕、行ける」
「俺も」

 凪が返事を送ると、小鈴から、四時にするの、と来た。

「あれ。俺、二時半って見たんですよ」

 彼は二時半を指していた。送った文は四時だった。

「指、そのまま。打った方、見よう」
「仕事でも、これやったんです」
「その時、直せた?」
「直しました。来る人、一人減ったけど」

 凪は日と時間を一つずつ打ち直した。僕が読むと、今度は二時半だった。小鈴が席へ戻り、どっちも空いているから、まず二時半と返した。

「私が冷蔵庫。凪が持主。歩は、物を取りに戻って来る客の方、一行やってみる?」
「聞きに行くって返事した」
「今日は一行も駄目?」

 小鈴は三分の二枚を出した。凪の書いた後半は、その横へ離した。

「今日、こっちは読まない。三分だけ。客が何を忘れて戻るか、そこ、まだ空いてる」

 僕は紙を開いた。一行目なら短い。凪は持主の紙を机へ置き、扉を開けるふりをした。僕はまだ帰っていなかった。

「もう、戻る人、入ってる」と小鈴が言った。
「あ、最初でした」

 凪が一枚戻し、僕も戻した。

「忘れ物です」

 一度に言った。小鈴が何を忘れました、と訊いた。次の行を見つけられなかった。

「まだ、探してます」

 彼女は僕の鞄を見た。凪も見た。僕は鞄を開けた。二人が待っていたので、閉めるまで少し長く掛かった。

「その鞄、持って帰っちゃう人ですね」と凪が言った。
「今、僕の鞄しかなくて」

 小鈴は紙へ小さく書いた。僕の名は書かなかった。

「明日、この客、いける?」
「一回、やってみる」

 凪が持主の最初を言った。僕が次へ行きかけると、彼は手を上げた。

「まだ。俺、開けるんで」

 扉を引く手だった。僕は待って、続けた。凪は笑い、携帯を見た。画面は黒いままだった。

「今の、また録ってない」
「ここ、喫茶店だよ」
「そうですね」

 原田さんから文が来た。明日の僕の便は替わった、連絡の必要な荷はあるか、と訊かれた。

「一回、待って。仕事の返事」

 凪は紙を揃えた。僕が月はまだ渡せていないと送る間、パンの袋を内側へ寄せた。

「続き、ここです。忘れたら」

 僕が紙へ戻ると、指を置いてくれた。次は僕の顔を見て、最初を言った。僕はその行から読めた。

 彼はパンを食べ、水を探した。僕は新しくもらったグラスを遠ざけた。

「そっち」
「また、やった」

 凪は空のグラスを持って笑った。僕は店の人を呼び、二つへ水を入れてもらった。

 小鈴が二時半の部屋を取った。明日出るかは、出る方で返事して、と凪へ言った。彼は送る前に時間を読んだ。

 凪はコピーの店へ寄ると言った。僕は駅へ二歩行って戻った。

「途中まで」
「そっち、帰る方じゃないです」
「知ってる」

 信号の手前で、彼はパンの袋から原稿を引き抜こうとしていた。僕が袋を持つと、紙を出した。
「書いた字、言ってくれない時があるんです。源さん。直した方が面白いから、戻してって言いにくい」
「二回読んだ方?」
「そこは好きです。最後、あんなに置くと思ってなかった。俺の最初、入る所なくなったけど」
 信号は赤かった。凪は紙の端へ指を置き、袋へ戻した。
 青になった。曲がって来る車があり、僕らは待った。
「明日、見ててください。俺、持主の方、止まったら」
「うん」
「撮れてない方も」
 僕は袋を返した。彼が一度、僕の方へ顔を向けた。二人で渡った。

 家では母が風呂を沸かし直していた。僕は玄関に座ったまま、ルカの電話へ出た。

「都、姉さんがいるから俺は帰っていいって」
「明日の道具は」
「工藤さんへ。名古屋の映像で話したことも、もう聞かれてる。手、見せたくないって言ったのまで」

 母が卵焼きを温めるか訊いた。今日はそのままでいいと言って、電話を切った。鞄の客の紙が曲がっていた。濡れていない所へ出してから、靴をしまった。

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目次

箱の外で待ち合わせ

  1. 01運んだ箱
  2. 02三分の役
  3. 03窓の裏
  4. 04帰ってから
  5. 05下ろした分
  6. 06受取人の署名
  7. 07靴の袋
  8. 08焦げた角
  9. 09聞いていた人
  10. 10店の前
  11. 11持ったまま
  12. 12二つの水読書中
  13. 13切る方
  14. 14見られる客
  15. 15聞こえる方
  16. 16土曜の九時
  17. 17返す紙
  18. 18台を下ろす
  19. 19終章 二回目

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