ルカはひばりの住所を読み上げた。
小宮さんが、大家の番号も、と言った。ルカは携帯で探し、写真と一緒に送った。僕の東の写真も送った。榊さんは最初に届いた画像を、保存し直す前にどう渡せばいいか確かめた。
「俺、行きたいです」とルカが言った。「いなかったら、そこに、ほかの物があるか。それも聞きたい」
小宮さんは現地へ連絡すると答えた。中へ勝手に入らず、着いたら待っている警察官へ名前を言うよう頼まれた。
畑野さんが机に手をついた。
「僕、案内するよ。鍵も」
「住所、わかった」とルカが言った。
都の姉は、自分の上着を取った。ルカも同じ上着へ手を伸ばしたので、姉が、私が着る、と袖を抜いた。彼は手を引いた。
店の扉が開き、警察官が畑野さんの名前を呼んだ。東から戻ったあと、もう一度話を聞く約束だったという。
畑野さんは僕を見た。
「歩、慌てて行かなくていい。向こう、もう動いてるから」
僕は鞄を取った。何を持って行けばよいか決められず、とりあえず仕事の手袋を入れたままにした。
「一緒に来る?」
榊さんに聞かれ、はいと答えた。
「窓、畳んだので」
それだけ言った。サエさんは膝の靴を寄せ、僕らが椅子の間を通れるようにした。小鈴が凪の携帯を見ていた。凪は、こっちは俺が残って話す、と言った。
タクシーは二台になった。
ルカと姉が先に出た。僕は榊さんの隣へ座った。小鈴から、いま何がわかった、と文が来た。まだ場所しか、と答えた。
凪からも来た。水の瓶は喫茶店で預かってもらった、と先にあった。僕は蓋を開けたか訊きかけて、窓の方を読んだ。
『窓、畳んだやつ、送る。脚の、見えてた』
僕は、必要なら現地で聞く、と返した。再生する前に榊さんの電話が鳴った。
大家からだった。警察と合鍵で中を見に行くという。榊さんは手帳を開き、停車した時に、土曜の壁の受取りを聞いた。
「脚も二本、受け取られたんですね。鍵は、まだ。はい」
彼女は紙へ日付を書いた。声を聞く間、鉛筆は動かなかった。
電話を切り、僕へ、土曜の五時前に壁を受け取って帰ったと教えてくれた。東へ移す話は聞いていなかった。月末の退去の約束は残っている。
僕は携帯を握った。僕が運んだ箱と、僕らが積んだ壁。東は火事で、都の写真はひばりだった。
榊さんが僕の手を見た。
「タクシー代、先に私が出します。あとで分けましょう」
「はい。財布、あります」
そう答えて、財布を出さなかった。彼女も今は支払わない。僕は携帯を鞄へ入れ、車の揺れが止まるまで窓の外を見た。
ひばりの赤と青の柱は、回っていなかった。
看板の下半分へ白い紙が貼ってあり、ガラス戸の内側にも紙がある。細い隙間から灯りが見えた。警察官が戸の前で僕らの名前を聞いた。
ルカは道路の向こうにいた。姉は上着の襟を寄せ、ガラス戸を見ていた。
「大家さん、入った」と姉が言った。
戸が開いた。中へ入る人の背中の向こうに、青い窓が見えた。
窓の先は白かった。僕は、部屋がそこで終わっているように見えた。舞台では、その後ろを歩けた。
戸が閉まると、青い枠も見えなくなった。
「外向きじゃないね」とルカが言った。
「うん」
「奥の戸、右から、通れるはずなんだけど」
彼は大家からもらった写真を出した。白い戸が端へ写っている。都の鞄の写真には、その部分が入っていなかった。
警察官が中から出て来た。
「壁板を組んだ人は」
僕らは二人で手を上げた。ルカが右手首を押さえ、写真を見せてくれないかと頼んだ。警察官は携帯を出した。
壁の右の一枚が折れ、白い戸を半分隠していた。棚の箱が、裏の桟の端へ載っている。
「その箱、先に取らないで」とルカが言った。
警察官はすぐに、店の中へ声をかけた。