箱の外で待ち合わせ

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CHAPTER 07 / 19

第七章 靴の袋

警察官が来てくれた。手にまだ携帯があったので、会社からです、と言った。朝、荷物を運んだ東倉庫で火が出た。会社へ車を返したあとに連絡が来た。伝票は会社にあり、自分の写真も残っている。

「その倉庫へ行ったのは、何時ですか」

「八時過ぎ。荷下ろしした写真に、時間が」

 僕は画面を見せた。畑野さんが署名する前、箱を四辺から撮ったものだった。

 警察官は会社の名前も聞き、原田さんと直接話せる番号を控えた。僕が送ろうとする文まで覗かず、いったん待っていて、と言った。

 ルカは別の警察官へ都のことで話していた。

「今朝の九時十八分に、これ。その前、道具を返してから僕が帰って、家にいなくて。ちゃんと電話したんです。帰るって」

 携帯を耳へ当てた形の手が、途中で下がった。

「最後に会った時は」

「劇場です。昨日、道具を車へ入れる前。都が事務所へ行く前に」

「会場では、源さんがどっちを向いていたか覚えていますか」
「窓の方。箱から出るって。手、貸しました。靴はもう、返してもらって」
 ルカが右の手首を出した。警察官はその話を別の行へ書いた。
「そのあと、都さん本人に会った人は」

 ルカが僕を見た。僕は都が事務所から出て来たところから話した。型紙と棚を残してほしいと言われた。電話しながら自転車の前の石をどけていた。最後には畑野さんの車の横へいた。

「乗ったところは?」

「見ました。助手席です。車が出たあとも僕は残って、源さんから毛布を借りました」

 畑野さんが近づいて来た。

「僕が、品川駅の高輪口の方まで。駅の前へ寄せた。帰る前に一人で考えたいって言うから、それ以上は」

「どこに停めたか、見たい」とルカが言った。

「うん。地図、出すよ」

 畑野さんが画面へ指を当てた。警察官は、その前に順に聞きます、と二人の間へ手を入れた。

 僕は一歩下がった。凪が入口の段差から立ち、警察官へ自分の携帯を渡した。今朝撮ったところを、最初から説明していた。言葉が同じ場所へ戻るたび、先ほどより速くなった。

「返してもらえますよね。土曜のも、仕事で使うので」

 警察官は、確認して連絡します、と答えた。凪は、土曜の分も渡します、と言い直した。

 下で鍵の人が、帳面を開いて話していた。

「受付、終わらなくて。小鈴さんたちの釣銭、まだここ。車に行っちゃって」

 小さい封筒を机へ置いた。警察官が昨夜のことを訊いた。

「八時半からは、ほかの部屋は終わり。私、階段の下でこれ、つけてた。戻る人には声掛けるの。こっちの人は、先に上にいるって。あとで、そちらの人が上がった」

 彼女は凪を、次にルカを見た。二人が九時半に下りてから、一緒に外へ出て建物を閉めたと言った。警察官はほかに上がった人がいるか訊いた。いないと答え、彼女は封筒を自分の鞄へ戻した。

「今朝も、私が開けたとこから、この人、撮ってた。釣銭渡すつもりだったんだけど」

 サエさんは、靴の袋を胸へ抱えて来た。

 僕を見るより先に、源さんの名前を言った。戸の中にまだいると伝えると、携帯を出そうとして袋を下げ、そのまま止まった。

「靴、渡しておいて」

 僕は両手を出した。彼女は持ち手を離さなかった。

「やっぱり、持ってる。あの人、直したところ、見ないと履くから」

 僕は手を戻した。

 サエさんは畑野さんへ、家族のいるところを聞いた。姪が劇場へ向かいかけていたと知ると、電話を替わらせてもらうよう頼んだ。袋を両手で持っていたので、畑野さんが携帯を耳の近くへ渡した。

「衣裳をやっていた者です。靴が、ここに」

 そこから声が出なくなった。畑野さんは携帯を受け取り、借りた会場の名前と北品川の住所を伝えて切った。

 僕は水を買いに行った。凪の分は、いつも買う細い方にした。口の広い瓶は、鞄で蓋が緩むと言っていた。サエさんは冷たいのは嫌だと言ったので、自分で開けた。凪にもう一本渡すと、彼は、いま飲めない、と膝へ置いた。

「買ってくれて、ありがとう。あとで、飲む」

 僕は頷き、自分の水を一口飲んだ。

 原田さんが来た時には、僕らは向かいの喫茶店へ移っていた。

 日曜は休みだったが、店主が扉を開けてくれた。畑野さんが奥の椅子を借り、小鈴へ連絡する人を探した。サエさんは、自分がかける、と袋を膝へ置いた。

 原田さんは僕の背後に立った。

「東の話、警察にしたか」

「はい。番号も渡しました」

「向こう、火は消えた。今、入れるか聞いてる。会社の車は、もう戻ってるからな」

 僕は、車を返したことだけはちゃんと言えた。

 原田さんが隣へ座った。写真を見せようとすると、机に伏せてある僕の携帯へ目を落とした。父へ打ちかけた文があった。

「家へ、遅くなるって入れとけ」

「あとで」

「写真はあとで一緒に見る」

 僕は源さんが倒れ、警察へ話すので帰りが遅くなると送った。母にも送った。すぐに返事が来るのが怖くて、仕事の写真へ戻った。

 畑野さんは入口で男の人と話していた。僕は見たことがない。薄い鞄を持ち、舞台のほうへ行こうとして止められていた。

「前の職場の三浦さん」と畑野さんが言った。「日曜、劇場とひばりを見たいって、話してたから。劇場で榊さんから、こっちを聞いたんだって」

 三浦さんは僕らへ頭を下げた。畑野さんへ、月曜はどうする、と小さい声で聞いた。

「朝の、説明だけは聞きに行く。そのあと、こっちへ」

「無理なら、僕から言うよ」

「行く。先に電話、入れとくから」

 畑野さんの声は、電話で搬出を頼む時に似ていた。三浦さんは一度頷き、鞄へ入れた紙を出さなかった。

 そのあと畑野さんの携帯が鳴った。源さんの姪だと言って、店の外へ出た。僕らが移ったあと、身体を調べる医師も、源さんのいる会場へ来たと警察から聞いた。姪はそこへ着いたという。

 サエさんの電話から、小鈴の声が漏れていた。

「いま、駅。午前の分、終わったから。源さん、靴、履ける?」

 サエさんは、来て、とだけ言った。畑野さんが戻り、携帯を持った手を下ろした。

「医師が、確認したって。源さん、亡くなってる」

「いま?」

 僕が聞くと、畑野さんは首を振った。

「来た時には、もう」

 原田さんが携帯を机へ伏せた。写真はまだ途中だった。

 サエさんは靴の袋を隣の椅子へ置いた。凪は自分の靴の先を見ていた。僕も見た。床に、水の瓶の丸い跡がついていた。

 小鈴が警察官へ、土曜の九時四分には源さんと話したと伝えていた。返した車の場所を聞かれ、まだ読んでると返されたという。僕は同じ時刻の中へ、源さんの声と、もう動かない腕を置けなかった。

 僕は、何もしていない手を膝へ下ろした。

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目次

箱の外で待ち合わせ

  1. 01運んだ箱
  2. 02三分の役
  3. 03窓の裏
  4. 04帰ってから
  5. 05下ろした分
  6. 06受取人の署名
  7. 07靴の袋読書中
  8. 08焦げた角
  9. 09聞いていた人
  10. 10店の前
  11. 11持ったまま
  12. 12二つの水
  13. 13切る方
  14. 14見られる客
  15. 15聞こえる方
  16. 16土曜の九時
  17. 17返す紙
  18. 18台を下ろす
  19. 19終章 二回目

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