箱の外で待ち合わせ

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CHAPTER 13 / 19

第十三章 切る方

月曜の朝、都の姉と劇場へ行った。小鈴は机の布を二袋へ分け、別の会場へ電話していた。凪の提出した後半にも彼女の名がある。印刷へは入れないでほしいと言うと、今日の分はもう止められないと返された。

「前半は出したいです。でも、続けてでは。まだ私、後ろへ出るって返事してないので」

 電話を切り、枠を残すための三千円を振り込んだ。チラシへ線を引き、三分の二枚だけを自分の鞄へ入れた。

「今日の部屋は取った。こっちは三人で」

 僕は青い型紙を出した。病院へ持って行けば、都が切口を直せる。原田さんが午後便へ載せてくれると言った。

「写真撮ったら、先に相手へ」と姉が言った。「紙ごと戻すのは、もう間に合わないから」

 小宮さんが出してよいと確認した二袋を車へ運んだ。源さんの台はまだ作業室にあった。入口のガラスの向こうには、白いシャツが掛かっていた。

 都はゼリーの蓋を二度引いて、僕へ渡した。

「そこ、切るんだよ」

 別の端から開けると、指へ飛んだ。都は頬を向けず、机を寄せてと言った。姉が型紙を広げ、電話を相手へつないだ。

「ここから全部裁ち直す額じゃないでしょう。切ってある分、私がやったんだよ」

 都は相手の線を消し、自分の切った所を見せた。僕の携帯で写真を撮った。直す前の方も撮るよう言われ、二枚を続けて送った。

 ルカが袋を持ち上げた。

「もう出せる?」
「まだ。ここ、いま説明してる」

 彼は戻した。都が通話を終えた時、原田さんから、載せるならあと十分と文が来ていた。

「私の携帯、返してもらえる日、聞いて」

 姉が、まだ返せないと言われたと答えた。警察が畑野さんから回収した携帯だった。

「前の袖の写真、あれにしかない。凪の動画は姉さんに来たけど、止めた一枚も欲しい。取っていい分、先に聞いて」
「俺の方に来てるのなら」とルカが言った。
「袖の方。日曜の文と、鞄の写真は私、送ってない」

 彼は携帯を出しかけて止めた。都は姉へ、写真を受け取れるか先に訊いてと言った。

「源さんの上着、また縫ってとは言わないんだね」

 都が僕へ言った。

「写真、見た?」
「まだ、傷の方は」
「見た。私の線を、別の切れ目が横切ってる。ほつれた方じゃない」

 僕は右の背へ付いた白い糸を取った。八時九分だった。細い縫い目は閉じていた。

「源さん、ひばりへ来た?」

 都の鉛筆が止まった。

「来たら全部言うつもりだった。来なかったよ」

 都は、払済みの控えへ自分の紙を使おうとした畑野さんを止めた。彼が控えを見せてと言ったので、携帯を開き、まだ払ってもらっていない額を出した。

「返してって言った。岸さんに見せるなら、私が説明するって。紙も抜いた。私の分だから」

 抜いた端が裂けると、彼はもう一枚あると言った。都が携帯へ手を伸ばし、殴られた。奥へ押されたあとも、携帯は戸の外にあった。

「開く番号は言った。返すって言うから。でも、こっちが払ったっていう方は、言わなかった」

 都は鉛筆を取り直した。岸さんとの電話が続く間は、畑野さんが戸の下を足で押していた。

「放すと出るぞって、何回も。八時四分から、三十四分。岸さんの方にも、もう警察が聞いたって」
「そのあと?」
「棚、引く音。それで出られなくなって。三十八分までは、あの人の声した」

 源さんはその三十八分まで、会場で笑っていた。僕は署で見た白い靴下と、薄茶色の上着を思い出した。

「鞄は、持って入れた?」
「外。薬が入ってるから、渡してって言った。出してくれなかった」

 写真にはコートが掛かり、鞄は窓の前に置いてあった。都が見られなかった側から撮った写真だった。僕は携帯を出し、姉へ渡した。都は型紙の方へ、机を寄せ直してと言った。袖の動画は姉の携帯にあった。姉は、いま直した型紙の切口も、撮り直した。

 原田さんから電話が来た。

「午後便、やめる」

 僕は間に合わないと答えた。姉が無料の車の欄を閉じ、借りる方の額を都へ見せた。受け取るはずの額が減った。

「袋を出すだけだったよね」
「ごめん。源さんが来たか、今、聞きたかった」

 都は型紙を畳まなかった。

「俺の車なら」とルカが言った。
「そっち、取って。帰る時も姉さんので」

 都は姉へ携帯を返した。僕は原田さんへ掛け直し、金曜の布の便を頼んだ。相手がそこまで待てるか先に聞けと言われた。

 署で小宮さんが、岸さんへ渡った台の寸法を出した。畑野さんから二十時二十四分に送られ、源さんの声が付いている。
『箱を下ろしたら俺もそっちへ行く』
 最後に小鈴が、そっちは私の会場、と言った。
「昼、録ってました。僕もいて。本を返す前です」
 畑野さんは都の戸を押さえながら、これを送った。源さんがひばりに来なかったことを、都は鉛筆を止めて答えた。あの電話の間、源さんは別の二階で笑っていた。

 小宮さんは源さんの上着の写真を出した。二つの糸玉の間を、刃の切れ目が横切っていた。傷は一か所で、内部の出血が死因だと聞いた。
「八時九分には、ここ、閉じてました」
 僕は切れ目を避けて指を置いた。毛布の白い糸を取った場所だった。
「そのあとを見てください」
 凪が劇場から戻ったあとの画だった。源さんは綴じ紐を切り、凪の束も切って、ナイフを箱の上へ置いた。持主の二度目を読み終え、紙を机へ伏せる。右の背が画の端へ入った。
 糸玉の間は閉じていた。

 次の画では、その椅子が空いていた。凪が戻る客を読み、閉じた箱の縄の下に、薄茶色の端があった。斜めの隙間が走っている。
 僕は上着の写真を見た。さっき切れ目を避けた指が、もう机の上にない。
「袖の端じゃ、ないですか」
「どの袖ですか」
 小宮さんへ答えられなかった。
 箱から足を下ろす源さんの画をもう一度見た。顔を窓側へ残し、帰る客を先に見ていた。朝も顔はそちらにあった。僕は腰へ手を入れ、肩の下の布を畑野さんが持った。
「服だけなら、置けますよね」
 僕が言うと、小宮さんは、客を撮った続きも朝の画も確かめている、と答えた。
 凪が源さんを呼んでいた。僕はその声が止まるまで、箱の方を見なかった。

 金曜の布の便を、ここでは決められない。原田さんへ掛け直し、都の姉へ相手の返事を送った。試着は金曜の午後に替えられる。借りる車の額は残っていた。

 凪から文が来た。二時半、読み合わせの部屋へ行きます。署へはそのあと。
 鞄に客の紙があった。日曜の夜、僕が仕事の返事から戻ると、凪は次の行へ指を置いてくれた。僕の顔を見て、最初から言ってくれた。
「今日、三分をやるんです。凪と小鈴と」
「終わったら、そのまま来られますか」
「はい」
 小宮さんへ、源さんが帰ったと言った所を、凪に聞きたいとも答えた。
「録画のことはこちらで聞きます」
 僕は頷いた。鞄へ紙を戻すと、端が留め金に挟まった。いったん開け、指の付いた一行目を内へ入れた。

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目次

箱の外で待ち合わせ

  1. 01運んだ箱
  2. 02三分の役
  3. 03窓の裏
  4. 04帰ってから
  5. 05下ろした分
  6. 06受取人の署名
  7. 07靴の袋
  8. 08焦げた角
  9. 09聞いていた人
  10. 10店の前
  11. 11持ったまま
  12. 12二つの水
  13. 13切る方読書中
  14. 14見られる客
  15. 15聞こえる方
  16. 16土曜の九時
  17. 17返す紙
  18. 18台を下ろす
  19. 19終章 二回目

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