月曜の朝、都の姉と劇場へ行った。小鈴は机の布を二袋へ分け、別の会場へ電話していた。凪の提出した後半にも彼女の名がある。印刷へは入れないでほしいと言うと、今日の分はもう止められないと返された。
「前半は出したいです。でも、続けてでは。まだ私、後ろへ出るって返事してないので」
電話を切り、枠を残すための三千円を振り込んだ。チラシへ線を引き、三分の二枚だけを自分の鞄へ入れた。
「今日の部屋は取った。こっちは三人で」
僕は青い型紙を出した。病院へ持って行けば、都が切口を直せる。原田さんが午後便へ載せてくれると言った。
「写真撮ったら、先に相手へ」と姉が言った。「紙ごと戻すのは、もう間に合わないから」
小宮さんが出してよいと確認した二袋を車へ運んだ。源さんの台はまだ作業室にあった。入口のガラスの向こうには、白いシャツが掛かっていた。
都はゼリーの蓋を二度引いて、僕へ渡した。
「そこ、切るんだよ」
別の端から開けると、指へ飛んだ。都は頬を向けず、机を寄せてと言った。姉が型紙を広げ、電話を相手へつないだ。
「ここから全部裁ち直す額じゃないでしょう。切ってある分、私がやったんだよ」
都は相手の線を消し、自分の切った所を見せた。僕の携帯で写真を撮った。直す前の方も撮るよう言われ、二枚を続けて送った。
ルカが袋を持ち上げた。
「もう出せる?」
「まだ。ここ、いま説明してる」
彼は戻した。都が通話を終えた時、原田さんから、載せるならあと十分と文が来ていた。
「私の携帯、返してもらえる日、聞いて」
姉が、まだ返せないと言われたと答えた。警察が畑野さんから回収した携帯だった。
「前の袖の写真、あれにしかない。凪の動画は姉さんに来たけど、止めた一枚も欲しい。取っていい分、先に聞いて」
「俺の方に来てるのなら」とルカが言った。
「袖の方。日曜の文と、鞄の写真は私、送ってない」
彼は携帯を出しかけて止めた。都は姉へ、写真を受け取れるか先に訊いてと言った。
「源さんの上着、また縫ってとは言わないんだね」
都が僕へ言った。
「写真、見た?」
「まだ、傷の方は」
「見た。私の線を、別の切れ目が横切ってる。ほつれた方じゃない」
僕は右の背へ付いた白い糸を取った。八時九分だった。細い縫い目は閉じていた。
「源さん、ひばりへ来た?」
都の鉛筆が止まった。
「来たら全部言うつもりだった。来なかったよ」
都は、払済みの控えへ自分の紙を使おうとした畑野さんを止めた。彼が控えを見せてと言ったので、携帯を開き、まだ払ってもらっていない額を出した。
「返してって言った。岸さんに見せるなら、私が説明するって。紙も抜いた。私の分だから」
抜いた端が裂けると、彼はもう一枚あると言った。都が携帯へ手を伸ばし、殴られた。奥へ押されたあとも、携帯は戸の外にあった。
「開く番号は言った。返すって言うから。でも、こっちが払ったっていう方は、言わなかった」
都は鉛筆を取り直した。岸さんとの電話が続く間は、畑野さんが戸の下を足で押していた。
「放すと出るぞって、何回も。八時四分から、三十四分。岸さんの方にも、もう警察が聞いたって」
「そのあと?」
「棚、引く音。それで出られなくなって。三十八分までは、あの人の声した」
源さんはその三十八分まで、会場で笑っていた。僕は署で見た白い靴下と、薄茶色の上着を思い出した。
「鞄は、持って入れた?」
「外。薬が入ってるから、渡してって言った。出してくれなかった」
写真にはコートが掛かり、鞄は窓の前に置いてあった。都が見られなかった側から撮った写真だった。僕は携帯を出し、姉へ渡した。都は型紙の方へ、机を寄せ直してと言った。袖の動画は姉の携帯にあった。姉は、いま直した型紙の切口も、撮り直した。
原田さんから電話が来た。
「午後便、やめる」
僕は間に合わないと答えた。姉が無料の車の欄を閉じ、借りる方の額を都へ見せた。受け取るはずの額が減った。
「袋を出すだけだったよね」
「ごめん。源さんが来たか、今、聞きたかった」
都は型紙を畳まなかった。
「俺の車なら」とルカが言った。
「そっち、取って。帰る時も姉さんので」
都は姉へ携帯を返した。僕は原田さんへ掛け直し、金曜の布の便を頼んだ。相手がそこまで待てるか先に聞けと言われた。
署で小宮さんが、岸さんへ渡った台の寸法を出した。畑野さんから二十時二十四分に送られ、源さんの声が付いている。
『箱を下ろしたら俺もそっちへ行く』
最後に小鈴が、そっちは私の会場、と言った。
「昼、録ってました。僕もいて。本を返す前です」
畑野さんは都の戸を押さえながら、これを送った。源さんがひばりに来なかったことを、都は鉛筆を止めて答えた。あの電話の間、源さんは別の二階で笑っていた。
小宮さんは源さんの上着の写真を出した。二つの糸玉の間を、刃の切れ目が横切っていた。傷は一か所で、内部の出血が死因だと聞いた。
「八時九分には、ここ、閉じてました」
僕は切れ目を避けて指を置いた。毛布の白い糸を取った場所だった。
「そのあとを見てください」
凪が劇場から戻ったあとの画だった。源さんは綴じ紐を切り、凪の束も切って、ナイフを箱の上へ置いた。持主の二度目を読み終え、紙を机へ伏せる。右の背が画の端へ入った。
糸玉の間は閉じていた。
次の画では、その椅子が空いていた。凪が戻る客を読み、閉じた箱の縄の下に、薄茶色の端があった。斜めの隙間が走っている。
僕は上着の写真を見た。さっき切れ目を避けた指が、もう机の上にない。
「袖の端じゃ、ないですか」
「どの袖ですか」
小宮さんへ答えられなかった。
箱から足を下ろす源さんの画をもう一度見た。顔を窓側へ残し、帰る客を先に見ていた。朝も顔はそちらにあった。僕は腰へ手を入れ、肩の下の布を畑野さんが持った。
「服だけなら、置けますよね」
僕が言うと、小宮さんは、客を撮った続きも朝の画も確かめている、と答えた。
凪が源さんを呼んでいた。僕はその声が止まるまで、箱の方を見なかった。
金曜の布の便を、ここでは決められない。原田さんへ掛け直し、都の姉へ相手の返事を送った。試着は金曜の午後に替えられる。借りる車の額は残っていた。
凪から文が来た。二時半、読み合わせの部屋へ行きます。署へはそのあと。
鞄に客の紙があった。日曜の夜、僕が仕事の返事から戻ると、凪は次の行へ指を置いてくれた。僕の顔を見て、最初から言ってくれた。
「今日、三分をやるんです。凪と小鈴と」
「終わったら、そのまま来られますか」
「はい」
小宮さんへ、源さんが帰ったと言った所を、凪に聞きたいとも答えた。
「録画のことはこちらで聞きます」
僕は頷いた。鞄へ紙を戻すと、端が留め金に挟まった。いったん開け、指の付いた一行目を内へ入れた。