箱の外で待ち合わせ

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CHAPTER 11 / 19

第十一章 持ったまま

「脚、ついてないです」

 ルカは写真へ顔を近づけた。

「正面で、一人、支えて。その人が持ってから、箱を下ろして。先に箱だけ取ると、こっちへ倒れる」

「壁へ穴を開けるほうが早いですか」

「窓、ガラスないです。そこから後ろ、見られる。壁を動かすなら、二人。下の枠、板だけ掴むと、割れます」

 僕は写真の下を指した。手袋を鞄から出したところで、警察官が、こちらでやります、と言った。手袋はまた戻した。

 ルカが都の名前を呼んだ。車の音に重なった。店の中へ届いたか、わからなかった。

 姉は花屋の軒へ下がり、冷たいねと言った。僕が足元を見ると、薄い靴下だった。花屋の人が、中へ寄っていい、と声をかけてくれた。

 ルカは道路の縁から動かなかった。

 木の擦れる音がした。

 ガラス戸が開いている間に、中から椎名さん、と呼ぶ声が聞こえた。車が二台通った。三台目が来る前に、硬い短い音がした。

 ルカが道路へ足を出した。向かいの警察官が手を上げ、彼は止まった。僕も同じところで止まった。

 白髪の男の人が、店の横で電話していた。大家だった。鍵束を片手で握り、小部屋は元の洗濯機置場、裏から入る戸はない、と答えていた。

 電話を切ると、僕らへ近づいた。

「持ち物、あった。奥の戸の中から、音、したって。いま、棚を」

「都は」とルカが聞いた。

「まだ。中の人が」

 救急車が角を曲がった。僕は音より先に、理容室へ当たる赤い灯りを見た。

 姉が上着を脱いだ。ルカが手を出すと、今度は渡した。彼は胸へ抱え、救急隊が中へ入るのを見ていた。

「持つよ」と僕が言った。

「持ってる」

 声が強かった。僕は自分の手を下ろした。

 大家がポケットへ鍵を入れようとしていた。口へ金具が引っかかり、上着を何度も引いた。僕はその手を見ていた。ガラス戸がまた開くと、すぐ顔を上げた。

 警察官がこちらへ来た。

「椎名さんが見つかりました。意識はあります。いま、救急隊が確認しています」

 姉は両手を口へ上げた。ルカは上着を見た。袖を握り直し、都、と、小さい声で言った。

 担架に横になった都は、頬に擦り傷があった。

 結った髪が片方ほどけ、肩の下へ入っていた。ルカが近づくと、閉じていた目が少し動いた。

「都」

 彼はそれ以上、言わなかった。上着を救急隊の人へ渡した。姉が自分の名を言い、病院へ一緒に行くと伝えた。

 都は顔を向けかけ、途中で止めた。唇が動いた。

 缶、と聞こえた。

 ルカはポケットから出した。薄い花の模様があった。蓋へ親指を掛けると、都が顔をしかめた。彼は開けずに見せた。

「これ。ある」

 都がわずかに頷いた。

 救急隊の人が担架を動かした。姉が付き添い、ルカへ病院で会おうと言った。彼は缶をしまい、扉が閉まるところをすぐそばで見た。

 車が出ると、僕は花屋の軒へ戻った。壁へ手をつかなければ立っていられなかった。榊さんが低い丸椅子を借りてくれた。

 座ると、膝が高く上がった。作業着の尻の布が引っ張られた。

 笑いそうになった。ルカがこちらを見た。

「歩」

「椅子、低くて」

 言うと笑ってしまった。そのまま息が詰まって、両手で顔を覆った。ルカは隣へしゃがんだ。僕は、これが椅子のせいじゃないことを説明できなかった。

 警察官が壁板をどけた写真を見せてくれた。

 白い戸の前に金属の棚があり、床をずらした黒い跡が残っていた。壁板で隠れていた場所だった。

「戸の前の棚を動かしました。中から、足で戸を叩いて応じてくれました」

 僕は写真を見た。床は小部屋の中にも続いている。

 大家は、土曜の五時前に帰ったあと、都が来るとは聞いていなかったと言った。引き払うのは今月末で、鍵もまだ返してもらっていない。

 ルカが病院の名前を榊さんへ聞いた。姉から電話が来た。都は電話が終わったあとに棚を引く音を聞いたと言っていると、榊さんから小宮さんへ伝えた。脚の束は棚の脇で、紐が掛かったままだった。昨日、畑野さんが荷台へ束のまま置き、縄を掛けた脚だった。
 僕は凪へ、見つかった、と送った。すぐ電話が来た。

「生きてる?」

「うん。ルカへ、缶って」

 向こうで何かが倒れた。凪が、大丈夫です、と誰かへ言った。

「こっちも、伝える。小鈴さん、隣にいる」

 僕は手を膝へ下ろした。鞄へ戻した手袋を、今日、まだ使っていなかった。

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目次

箱の外で待ち合わせ

  1. 01運んだ箱
  2. 02三分の役
  3. 03窓の裏
  4. 04帰ってから
  5. 05下ろした分
  6. 06受取人の署名
  7. 07靴の袋
  8. 08焦げた角
  9. 09聞いていた人
  10. 10店の前
  11. 11持ったまま読書中
  12. 12二つの水
  13. 13切る方
  14. 14見られる客
  15. 15聞こえる方
  16. 16土曜の九時
  17. 17返す紙
  18. 18台を下ろす
  19. 19終章 二回目

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