火曜、工藤さんの店へ青い袋を持って行った。
受け取る人は先に来ていた。二時には出るから、机を空けてと言われた。長いケースを動かし、袋を広げた。僕は金曜の布の便で間に合うかを先に訊いた。
「金曜なら本人が来る。着せて直すから、この切口だけ都さんへ聞かせて」
電話がつながった。都の声が大きくなり、消した線の横へ相手が寸法を書いた。僕の携帯で撮ってよいか、二人へ聞いた。
都が一度戻した。
「右の端まで入れて。そこが、私の切った分だから」
右端が入るまで、携帯を引いた。写した方を相手へそのまま渡した。土曜の袖の映像は、凪から姉へ渡っていた。いま撮った型紙の方を、凪にも見せれば、と指が番号へ行きかけた。相手の番号を開き直した。
袋を渡すと、ルカが奥から二本の工具を出した。源さんの名前を書いた方を、別の紙へ載せている。
「そっちは預ける」と彼は言った。「名古屋の重い組立、別の人になった」
「右、見せろって言われたんだね」
僕が言うと、彼の指が止まった。
「映像の話、聞いた?」
「見た。電話だけなら、戻れたんじゃないかって思ってた。名古屋の人と図を合わせてた方も。源さんの背と、箱の動画も」
ルカは工具を置いた。
「いつから」
「日曜。箱を開ける前に窓の方へ回ったから。顔の所、先に知ってたんだって」
「土曜、そこから出て来たんだよ。俺、手、貸してるって、言ったよな」
「聞いてた。そっちより先に、中へ入れたからだって」
僕は袋の口から手を引いた。
「ごめん」
「都、見つかったって、一緒に喜んだよな」
「うん」
「俺もだよ」
彼は工藤さんを呼び、源さんの一本をここへ預けると言った。自分の方も、送り先を今は決めない。手をもう一度診てもらうという。
僕は待っていた。彼は袋を戻さなかった。
「名古屋へ僕が送る方は、誰へ聞けば」
「いま返事できない。次に何、訊かれるのかと思うから」
ルカは店を出た。工藤さんが送り先を消し、二本を分けて棚へ戻した。
僕は青い袋の人へ電話し、金曜の受取人の名前を確かめた。自分の札を書き終えてから、店を出た。
小鈴は新しい会場の机を動かしていた。
今日は源さんの姪へ渡す原稿を取るだけだった。凪が逮捕されたと聞いてから、僕は客の紙を鞄へ入れていない。
「そこ、持てる?」
机の端へ膝を入れた。小鈴が反対を持ち、客席の方を空けた。
「忘れ物の客、残した?」
「書いた。今日聞いてもらう方には、まだ入れない。ほかの人とやってみる」
彼女は二枚、僕へ渡した。源さんの姪へ持って行く写しだった。僕の名前は出演者の欄にない。
「俺、半分出すって」と僕は言いかけた。
「それ、凪の返事」
僕は紙を戻しかけた。小鈴は受け取らなかった。
「渡す方、頼んだよね」
「うん」
来月の主人はサエさんへ聞く。小鈴が司会の服を返しに出る間、僕は椅子を数えた。
受付の人が一つ運んで来た。
「昨日の、鞄に何もなかった人」
僕は顔を上げた。
「面白かった。また戻って来る?」
返事をしようとして、小鈴を見た。彼女は鞄へ服を入れていた。
「いまは、まだ決まってません」
受付の人は椅子を置き、次の部屋へ行った。僕は台詞を言えば、今度も少し笑ってもらえると思った。言わなかった。
紙を封筒へ入れた。小鈴が出るので、僕も一緒に出た。
その夜、父が月を運ぶ日は決まったか訊いた。
「まだ。向こうが別の日でいいって」
「夜か」
「舞台の」
父が笑った。僕も笑い、明日、人数を決めると答えた。母が皿を持ってきた。卵焼きは温かかった。
源さんは、割れたら自分へ電話しろと、月の裏へ番号を書いた。僕はそこを消すのか、消さないのか、会社ではまだ聞かれていなかった。
小鈴へ、姪へ渡す原稿は預かったと送った。客の役へ戻りたいとも書きかけた。
都の姉から、土曜の袖の長い方も届いていると来た。凪へ送ろうとした。そこまで打って消すと、宛先だけが残った。
日曜の夜、凪が置いてくれた指の下から、僕は続きを読めた。次に会ったら、その行を一度で見つけたかった。客の紙は小鈴が持っていた。
源さんの声を聞くための凪の文は、開かなかった。僕はその一行を消し、月の受取りの日を決める方へ戻った。
都の退院の日、姉が車を借りた。僕は会社の車を借りられず、先にそう答えていた。ルカも病院へ来たが、帰る車は都が姉へ頼んだ。
降りようとして、都が脚を止めた。
「病院の椅子より低い」
「手、貸す?」
「うん。首は触らないで」
僕が足元の袋を取ると、都は姉の腕で降りた。
部屋には、代わった人から戻った見本があった。三件は納品されている。来週その人が使うので返送する。
姉が三件分の領収書をしまった。借りた車の分も同じ封筒へ入れた。都は見本の端を撫でていた。
「上手い。分かってる。でも、私の線じゃなくなった」
鋏を取った。僕が携帯を構えると、切る前を撮ってと言った。
都の鋏は開かなかった。
見本を脇へ置き、次の注文の布を膝へ広げた。同じ所へ鉛筆を当て、少し外へずらす。
「今度は、この長さ残す。鉛筆の線まで入れて」
僕が画面を引くと、都は針を一本抜いた。布の端がずれた。端をいったん戻し、もう一度開いた。
「最初にそこ、見せる」
送る相手の名を姉へ言い、画を見せた。姉が見本を袋へ入れる。都が背を起こしかけて声を出した。
僕は腕を出した。都の手が手首を掴んだ。
「少し待って」
布が落ちた。姉が拾い、机へ置いた。
都はまだ僕の手を持っていた。僕が引かなかったので、そのまま少し起きられた。
僕は窓を開けた。
「ここまで。網戸ないんだよね」
風が入ると布が浮き、都はそこへ掌を載せた。
窓の下の段ボールを畳んだ。ルカが名古屋へ先に送りたかった箱だった。見本の袋は廊下へ出し、僕らは部屋へ戻った。
都が缶を開け、飴を一つずつ寄こした。
「新しい方、ルカの分へ混ぜないで。いまも台に掛けるって言うから」
「別で送る」
「水曜までに見本を送る。今日、相手へ聞ける?」
僕は相手の番号を開いた。
都は布を膝へ戻せず、姉に頼んだ。机の上へ広げてもらうと、次の線へ鉛筆を置いた。僕の手首は、離されたあとも少し痛かった。