箱の外で待ち合わせ

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CHAPTER 17 / 19

第十七章 返す紙

火曜、工藤さんの店へ青い袋を持って行った。

 受け取る人は先に来ていた。二時には出るから、机を空けてと言われた。長いケースを動かし、袋を広げた。僕は金曜の布の便で間に合うかを先に訊いた。

「金曜なら本人が来る。着せて直すから、この切口だけ都さんへ聞かせて」

 電話がつながった。都の声が大きくなり、消した線の横へ相手が寸法を書いた。僕の携帯で撮ってよいか、二人へ聞いた。

 都が一度戻した。

「右の端まで入れて。そこが、私の切った分だから」

 右端が入るまで、携帯を引いた。写した方を相手へそのまま渡した。土曜の袖の映像は、凪から姉へ渡っていた。いま撮った型紙の方を、凪にも見せれば、と指が番号へ行きかけた。相手の番号を開き直した。

 袋を渡すと、ルカが奥から二本の工具を出した。源さんの名前を書いた方を、別の紙へ載せている。

「そっちは預ける」と彼は言った。「名古屋の重い組立、別の人になった」
「右、見せろって言われたんだね」

 僕が言うと、彼の指が止まった。

「映像の話、聞いた?」
「見た。電話だけなら、戻れたんじゃないかって思ってた。名古屋の人と図を合わせてた方も。源さんの背と、箱の動画も」

 ルカは工具を置いた。

「いつから」
「日曜。箱を開ける前に窓の方へ回ったから。顔の所、先に知ってたんだって」
「土曜、そこから出て来たんだよ。俺、手、貸してるって、言ったよな」
「聞いてた。そっちより先に、中へ入れたからだって」

 僕は袋の口から手を引いた。

「ごめん」
「都、見つかったって、一緒に喜んだよな」
「うん」
「俺もだよ」

 彼は工藤さんを呼び、源さんの一本をここへ預けると言った。自分の方も、送り先を今は決めない。手をもう一度診てもらうという。

 僕は待っていた。彼は袋を戻さなかった。

「名古屋へ僕が送る方は、誰へ聞けば」
「いま返事できない。次に何、訊かれるのかと思うから」

 ルカは店を出た。工藤さんが送り先を消し、二本を分けて棚へ戻した。

 僕は青い袋の人へ電話し、金曜の受取人の名前を確かめた。自分の札を書き終えてから、店を出た。

 小鈴は新しい会場の机を動かしていた。

 今日は源さんの姪へ渡す原稿を取るだけだった。凪が逮捕されたと聞いてから、僕は客の紙を鞄へ入れていない。

「そこ、持てる?」

 机の端へ膝を入れた。小鈴が反対を持ち、客席の方を空けた。

「忘れ物の客、残した?」
「書いた。今日聞いてもらう方には、まだ入れない。ほかの人とやってみる」

 彼女は二枚、僕へ渡した。源さんの姪へ持って行く写しだった。僕の名前は出演者の欄にない。

「俺、半分出すって」と僕は言いかけた。
「それ、凪の返事」

 僕は紙を戻しかけた。小鈴は受け取らなかった。

「渡す方、頼んだよね」
「うん」

 来月の主人はサエさんへ聞く。小鈴が司会の服を返しに出る間、僕は椅子を数えた。

 受付の人が一つ運んで来た。

「昨日の、鞄に何もなかった人」

 僕は顔を上げた。

「面白かった。また戻って来る?」

 返事をしようとして、小鈴を見た。彼女は鞄へ服を入れていた。

「いまは、まだ決まってません」

 受付の人は椅子を置き、次の部屋へ行った。僕は台詞を言えば、今度も少し笑ってもらえると思った。言わなかった。

 紙を封筒へ入れた。小鈴が出るので、僕も一緒に出た。

 その夜、父が月を運ぶ日は決まったか訊いた。

「まだ。向こうが別の日でいいって」
「夜か」
「舞台の」

 父が笑った。僕も笑い、明日、人数を決めると答えた。母が皿を持ってきた。卵焼きは温かかった。

 源さんは、割れたら自分へ電話しろと、月の裏へ番号を書いた。僕はそこを消すのか、消さないのか、会社ではまだ聞かれていなかった。

 小鈴へ、姪へ渡す原稿は預かったと送った。客の役へ戻りたいとも書きかけた。

 都の姉から、土曜の袖の長い方も届いていると来た。凪へ送ろうとした。そこまで打って消すと、宛先だけが残った。
 日曜の夜、凪が置いてくれた指の下から、僕は続きを読めた。次に会ったら、その行を一度で見つけたかった。客の紙は小鈴が持っていた。
 源さんの声を聞くための凪の文は、開かなかった。僕はその一行を消し、月の受取りの日を決める方へ戻った。

 都の退院の日、姉が車を借りた。僕は会社の車を借りられず、先にそう答えていた。ルカも病院へ来たが、帰る車は都が姉へ頼んだ。
 降りようとして、都が脚を止めた。
「病院の椅子より低い」
「手、貸す?」
「うん。首は触らないで」
 僕が足元の袋を取ると、都は姉の腕で降りた。

 部屋には、代わった人から戻った見本があった。三件は納品されている。来週その人が使うので返送する。
 姉が三件分の領収書をしまった。借りた車の分も同じ封筒へ入れた。都は見本の端を撫でていた。
「上手い。分かってる。でも、私の線じゃなくなった」
 鋏を取った。僕が携帯を構えると、切る前を撮ってと言った。
 都の鋏は開かなかった。
 見本を脇へ置き、次の注文の布を膝へ広げた。同じ所へ鉛筆を当て、少し外へずらす。
「今度は、この長さ残す。鉛筆の線まで入れて」
 僕が画面を引くと、都は針を一本抜いた。布の端がずれた。端をいったん戻し、もう一度開いた。
「最初にそこ、見せる」
 送る相手の名を姉へ言い、画を見せた。姉が見本を袋へ入れる。都が背を起こしかけて声を出した。
 僕は腕を出した。都の手が手首を掴んだ。
「少し待って」
 布が落ちた。姉が拾い、机へ置いた。
 都はまだ僕の手を持っていた。僕が引かなかったので、そのまま少し起きられた。

 僕は窓を開けた。
「ここまで。網戸ないんだよね」
 風が入ると布が浮き、都はそこへ掌を載せた。
 窓の下の段ボールを畳んだ。ルカが名古屋へ先に送りたかった箱だった。見本の袋は廊下へ出し、僕らは部屋へ戻った。
 都が缶を開け、飴を一つずつ寄こした。
「新しい方、ルカの分へ混ぜないで。いまも台に掛けるって言うから」
「別で送る」
「水曜までに見本を送る。今日、相手へ聞ける?」
 僕は相手の番号を開いた。
 都は布を膝へ戻せず、姉に頼んだ。机の上へ広げてもらうと、次の線へ鉛筆を置いた。僕の手首は、離されたあとも少し痛かった。

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目次

箱の外で待ち合わせ

  1. 01運んだ箱
  2. 02三分の役
  3. 03窓の裏
  4. 04帰ってから
  5. 05下ろした分
  6. 06受取人の署名
  7. 07靴の袋
  8. 08焦げた角
  9. 09聞いていた人
  10. 10店の前
  11. 11持ったまま
  12. 12二つの水
  13. 13切る方
  14. 14見られる客
  15. 15聞こえる方
  16. 16土曜の九時
  17. 17返す紙読書中
  18. 18台を下ろす
  19. 19終章 二回目

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