箱の外で待ち合わせ

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CHAPTER 18 / 19

第十八章 台を下ろす

小宮さんから、箱の底に包んだナイフも確かめたと聞いた。小鈴の袖と土曜の写真、源さんの上着も確認されていた。原稿と携帯は別々に保管され、僕は自分が持った紙の端をもう一度示した。
 灰色の服に付いたのは都の血だった。畑野さんがその服を燃やしたことと、会場へ残った源さんの身体は、別々に聞かれていた。

 源さんの台は、姪の家の入口を通らなかった。いったん工藤さんの店へ置けることになり、日曜、僕とルカが運んだ。重い方は台車へ載せた。原田さんが先に下の段を押さえ、ルカは引出しだけを左で出した。
 劇場で引出しを空ける間、姪は写真を床へ並べた。持主の違う部品を分け、分からない物は袋へ残した。
「家じゃ削れないって、伯父、言ってたでしょう」
「はい」
「削ってた。怒られる前に片づけてただけ。食卓の傷、すごいの」
 写真の端にも白い傷が何本もあった。僕が短い紐を持つと、その先に読めない札が残っていた。姪はそれも写真へ並べた。源さんへ聞けばよいと思っていた物が、いくつもあった。
 台を押し出すと、ルカの靴が床へ擦れた。僕はまだ上げるかと訊き、台車をこのまま、と言われた。源さんの一本は預け、名古屋の重い組立は別の人になった。ルカが取った次の仕事は、まだ見積りの方だった。彼は床の段へ先に板を当てた。
 店では、長いケースをどけた幅へ下ろした。引出しは別で積んで来た。工藤さんが右二段目からと声を掛けた。録音もその順だった。
「そこへ膝、入れるんだよな」
 工藤さんがしゃがみ、引出しを押した。途中で止まる。僕が反対側を押さえると、奥まで入った。来月の金具は二つなら揃う。四つはないと、源さんへ返す用事が残っていた。
 工藤さんは袋から長い柄を抜き、源さんの名前を書いた紙へ載せた。ルカの一本とは分けてある。
 店の客の荷が来ると、僕らは外へ出た。姪は小さい袋だけを持っていた。写真の封筒は僕へ預けた。
「小鈴さんの箱、伯父、入ってた?」
「土曜に。客を運べって、自分で。小鈴が三分なくなるからって、止めたんです」
「出て来る役なら、よかったのにね」
「録った方、どうしますか」
 姪が僕を見た。
「いまは、持ってる。出すかどうかは、私もまだ。伯父、客の顔を見て立つって言ってたんでしょう」
「はい」
 僕は封筒を開かなかった。源さんの声は残っていて、凪の出すつもりだった方も、そこへ残る。
 ルカが地面を見た。僕は封筒の持つ所を替えた。
 小鈴から電話が来た。三分の持主をサエさんへ頼み、自分が冷蔵庫を読むという。源さんの声は使わない。
「今度の客、歩、一回やる?」
 僕は封筒を持ち直した。
「戻る方?」
「戻るかは、客席に訊く。あんた、帰る所まで、最後までやって。私が何を忘れたって訊くから」
「鞄は」
「今日、何持って来たの」
「写真の封筒」
「じゃ、その封筒は姪と決めて。稽古には、手、空いたままで来て」
 僕は行くと答えた。姪へ話すと、原稿、私にも、と言われた。
 姪は小鈴の上演へ行くと言った。友達も一人、誘ってみる。僕が日を教えると、彼女は予定を入れ、店の中へ顔を向けた。台の方は、入って来た客の荷で見えなくなっていた。

 畑野さんから、灰色の服の札を外さないでほしいと文が来ていた。現物は警察が持っている。一般の面会が出来ると連絡を受け、休みをもらった。
 彼は僕が座る前に名を呼んだ。
「服の話、読みました」
「札、写真には残ってた?」
「はい」
「取ると、どの公演か分からなくなる。榊さんに頼めばよかった」
 今の袖へ手を掛けた。そこには札がなかった。
「茶碗も、焼いたんですね」
「下だった。服だけ先に燃やして消すつもりだった。火が区画の奥まで入るとは」
「都の血を消すために」
 畑野さんは袖を放した。
「岸さんに見られたら、金を返すより先に聞かれる。都を出したら、台とは関係ない紙だって全部言うから」
 彼は部屋へ布団を入れ、夜の受付へ行くつもりだった。源さんが水曜は昼に寝ろと読んだ紙を覚えていた。
「日曜、ひばりでやってから。三浦さんも来るから」
 僕も一回だけやった芝居を覚えていた。台詞を忘れた畑野さんを、源さんが待った。
「都の文、二つとも、送ったんですね」
「返すつもりだった。携帯も」
「九時十八分の方は」
「火が消えてから。外で。ルカがまた掛けて来たから。あのまま、ひばりまで来ると思って」

 僕は朝の倉庫を思い出した。箱を下ろし、署名を受け取り、会社へ戻った。そのあと畑野さんは、都の携帯を持って外へ出た。

「写真は、昨日撮ったのを送った。電話じゃ、また掛けて来るから」
「鞄を、窓の前へ置いて?」
「薬があるから渡せって、中から。戸を開けると出るでしょう。コートも鞄へ掛けて。人がいる所は、撮らなかった」

 都は戸の中にいた。撮った人は、白い戸を見ていた。

「どこで送ったんですか」
「喫茶店から外へ出た時。姪へ掛ける前に。荷物もそこへあるって」
「都も、そこへいるって」
「帰らないならって、僕が」

 彼は止まった。源さんが畑野さんの台詞を待ったことを、僕も覚えていた。今は、次に何を言うかまで僕が渡したくなかった。

「台、返したら」
 畑野さんはそこで止まった。僕は鞄へ手を入れなかった。写真をもう一度見せれば、話を続けてくれると思いたくなかった。
 時間を告げられると、彼は袖を持った。
「歩、札だけは」
「僕からは頼みません」
 僕は立った。駅のベンチへ座り、携帯を出した。畑野さんの文が開いた。閉じて、鞄の写真を見た。
 次の電車が来ても、立たなかった。

 畑野さんの生活の物を出す日、僕は劇場へ入った。
 警察の確認を終えた物を家族が引き取る。三浦さんも来ていた。次の仕事の紙は封筒に入ったままで、送る住所をまだ聞けないと、付き添いの人へ話していた。
 源さんの写真は、次の上演で姪へ返す。小鈴には友達が一人増えると伝えていた。畑野さんの封筒は、家の引出しへ入れた。許してほしいとは書いていなかった。面会で話したあとも、その短い文は変わっていない。
 流しのタオルは乾いていた。茶碗を写した一枚が透明な袋に入っている。現物はまだ返されていなかった。僕はその写真を荷物へ入れてよいか、引き取る人へ聞いた。
 畑野さんが夜を過ごした場所には、コンセントが二つあった。延長コードを抜くと、もう一つから扇風機の線が出ていた。
 冬は、どうしていたんだろう、と僕は思った。聞けなかった。
 榊さんは入口で箱を数えていた。源さんから頼まれた物は、姪へ別の見積りを出している。生活の物の最後は枕だった。袋へ入れると半分が外へ出たので、僕は底へ押さず、口を広げた。
 ルカが戸を持った。僕が通ると、すぐ後ろへついた。袋が柱へ引っ掛かり、彼が少し戻って、と言った。
 枕を車へ入れた。僕らが戻ると、榊さんが劇場の扉を閉めた。僕の鍵は、荷物を出す前に返していた。
 鍵の音がした。僕はポケットへ手を入れた。いつもの所に、指へ当たる物がなかった。
 ルカが下へ落ちたテープを剥がした。貼紙の右下が扉から浮いていた。彼はそこを押し、粘らなくなったと僕へ言った。
 僕は手をポケットから出した。角を一緒に押したが、指を離すとまた浮いた。

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目次

箱の外で待ち合わせ

  1. 01運んだ箱
  2. 02三分の役
  3. 03窓の裏
  4. 04帰ってから
  5. 05下ろした分
  6. 06受取人の署名
  7. 07靴の袋
  8. 08焦げた角
  9. 09聞いていた人
  10. 10店の前
  11. 11持ったまま
  12. 12二つの水
  13. 13切る方
  14. 14見られる客
  15. 15聞こえる方
  16. 16土曜の九時
  17. 17返す紙
  18. 18台を下ろす読書中
  19. 19終章 二回目

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